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どこに掲載されたか全然覚えてない読書日記

2010年に短篇賞の佳作をもらって、2013年に単行本デビューしてから2019年6月現在まで、4冊の単行本を出した。日本で今商業出版してる小説家の中ではだいぶ少ない方です。

でも雑誌類ではけっこう仕事をしていて、掲載した短篇とか、途中で私が書けなくなっちゃってストップしてしまった連載とか、細かいエッセイやコラムや書評や解説、単行本にまとまっていない文章がかなりある。版元がバラバラだし内容もそれぞれ違うので、おそらく今後何かにまとまることもない文章があっちこっちに散らばっています。

で、今月もエッセイ2本ショートショート1本短篇2本というめまぐるしい締め切り攻勢をどうにか乗り越え、今日は一日休もうっと、とダラダラしていた(正確には『ゲーム・オブ・スローンズ』を途中まで進めた)。そして取りとめもなくフォルダを開けてみた。

すると、どこに掲載されたんだか全然覚えていない、読書日記をみつけた。なんだこれ。何で書いたかも覚えてない。ちなみに2016年のものです。

版権ももう時効でしょうー、ということであげてみる。

九月、ハーラン・エリスン『死の鳥』(伊藤典夫訳、ハヤカワSF文庫)を読む。実はエリスン作品を読んだのはこれがはじめてで、著名な『世界の中心で愛を叫んだけもの』もタイトルしか知らなかった。そして読みはじめてびっくりする。ものすごく好きだ。文体も物語も尖っててかっこいい。「『悔い改めよ、ハーレクイン!』とチクタクマンは言った」、「プリティ・マギー・マネー・アイズ」他、タイトルも最高である。
 特に「ジェフティは五つ」と「ソフト・モンキー」がたまらない。「ジェフティは五つ」は、とある場所で子供が「ジェフティは元気(fine)、いつだって元気(fine)」と言うのを、その場にいたエリスンが「ジェフティは五つ(five)、いつだって五つ(five)」に空耳したのがきっかけだという。幼なじみのジェフティはいつも五歳。彼の両親さえも子供のままのジェフティを疎むけれど、主人公だけはいつも一緒に遊んでやっていた。しかしある時主人公は、年を取らないジェフティがどんな世界に住んでいるのかを知る。
「ソフト・モンキー」も最高だ。NYの路上に住むアフリカ系アメリカ人のバッグ・レディは、毎日毎日、腕の中の人形に話しかける。どうやら、生き別れた実の息子だと思い込んでいるようだ。そんな時、ギャングが人を殺すのを目撃してしまい、彼女も命を狙われるようになる。
 時々、ぶん殴られつつも、うっとりした心地で奈落に落ちていきたいような小説に出会うことがあり、エリスンの作品はまさにそれだった。高慢にさえ感じる洒落た文章の下に、温かい血が流れている。ただしその色は、緑や青、得体の知れない色も混じっているだろう。魂は繊細で、今にも崩れてしまいそうだが、捕まえようとすると逃げてしまい、触れればナイフのように鋭く、残酷で、美しくて汚い。
 私の大好きなタイプの物語じゃないか! 何で今まで読んでなかったんだ。土下座をする。
 東京創元社の担当さんにそのことを伝えたところ、ひとしきり盛り上がり、実は担当さんがエリスン関連のコレクションを所持している追っかけだという事実を知った。彼は非常に厄介な性格の持ち主だそうだが、根っこが善人で、悪ぶっていても悪になれない人だと思う。でもきっとエリスン本人に言ったら怒られる。
 読了後、すぐに『世界の中心で愛を叫んだけもの』に取りかかった。以前から誰かが編んだアンソロジー短篇集が好きなので、エリスン編の『危険なビジョン』も読もうと思う。
 平行してスティーヴン・ミルハウザー『エドウィン・マルハウス』(岸本佐知子訳、河出文庫)を読む。こちらは頭が良すぎてしまった子供の悲劇である。夭折したエドウィン・マルハウスという「天才少年」の話かと思いきや、一筋縄ではいかない。エドウィンを観察している少年の方が天才で、文字という文字からすさまじい量の屈託と郷愁が溢れている。私は本当にこういう子供の小説に弱い。
 もう一冊、宮内悠介『スペース金融道』(河出書房新社)も読む。金融工学はちんぷんかんぷんだが、悪人なんだか人間くさいだけなんだかわからない男ユーセフがとても魅力的で、ほくそ笑みつつ夢中で読み進める。はじめのエピソードにある、未開の惑星をアンドロイドが開墾するくだりで、想像力が刺激され、本の世界に飛んだ。土を耕し、町を作り、そこで生きようとする何者かが、私はとても好きなのだと再確認する。
 面白い本は尽きない。

 


以上。

マジでいったいどこに書いたんだろう……まったく覚えてない……
いや、でもここに挙げた本は全部面白かったです。そして今手元にはハーラン・エリスンの『愛なんてセックスの書き間違い』があります。いえーい。
この読書日記(?)を書いた頃はまだハーラン・エリスンも生きていたのだ。寂しい。

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