東大駒場の授業を振り返る#1【格差に涙する必修の英語一列】

2Sセメスター(2年の春学期)が終わってから1か月以上がたった。ここらで1年半におよぶ駒場生活の振り返りをせよ、という伝令がカーボベルデ国軍のドナルド・マッシュルーム大佐より下ったので、海藻ばかり食べて痩せこけてしまった彼の仇をとるためにも、おぼろげな記憶をたどりつつ駒場の授業の振り返りをしていきたい。

苦痛な英語一列G1

まず振り返るのは英語一列①。これははっきりいって苦痛であった。入学前、英語は大好きな教科だったのだが、1Sの英語一列は高校までの英語の授業はおろか、近所の神社でやっていたシケた夏祭り(固体の水に色付き砂糖水をかけて食べる狂気の料理で知られる)と比べてもはるかにつまらないものだった。

普段は祭りの屋台でかき氷を販売しているというマイケル・カシューナッツ(仮名)師による授業は、すべて英語であった。私が入試の英語で中途半端に良い点数をとったせいで、G1という最上位クラス(※Sセメスターは入試の英語の点数、Aセメスター(秋学期)はSセメ英語一列のテストの点数でG1,G2,G3のいずれかに振り分けられる。学生のレベルに合わせた授業が展開されるという触れ込み)に放り込まれてしまったためだ。
授業中、先生は英語でしゃべり、私たちの質疑応答も英語。先生の魔術により、キャンパスが所在する目黒区の公用語も一時的に英語(ただし、こちらはシングリッシュ)となる。東大入試の英語にスピーキングなどないのだが、リーディング・ライティング・リスニングがよくできたからという理由でスピーキング能力が試される授業に投入されてしまうのだ。うっかり日本語をしゃべると先生が毒矢を放ってきてたちまち軽度の盲腸炎になってしまうから、無理をしてたどたどしいEngrishを必死に声門からひねり出す。
G1には英語とインドヨーロッパ祖語がペラペラの帰国子女が多い(らしい)。日本にひきこもっているばかりの私ではとてもかなわない。よって平常点も低くつく。進振りというグロテスクなシステムに支配され、高い点数が低い点数よりもはるかに重要とされる東大前期教養課程において、非帰国子女のG1erたちはこんなひどい仕打ちを受けなければならないのだ。

ここまでは全G1共通の悩み。しかし、1Aで別の先生のG1クラスを受けてわかったのだが、ピーナッツ師の授業はG1の中でもどちらかといえばつまらない方の授業なのだった。

授業までに教科書『強要洩語毒本』(今年度から別の教科書になった)の1章分(4ページの英文)を予習してくる。そして、授業が始まると章の内容に関する質問20問くらいが書かれたプリントが配られ、まもなくカシューナッツ師が章の英文を淡々と読みはじめ、不十分な語句解説をたまにはさみつつ、要所要所でプリントに書かれている質問を生徒に投げかけていく。生徒はそれに英語で答える。前半はそれだけ。次はいつ当てられるのかと極度に緊張しつつ、楽な質問の時に自分に当たってほしいと南無八幡大菩薩、我が国の神明、日光の権現、宇都宮、那須の湯泉大明神に祈りながら、ただただ英文朗読を聞いているだけの授業など楽しいはずがない。
その後、短いビデオ教材を見せられ、本文の内容とビデオの内容に関する質問が書かれたプリントに回答を記入し提出して授業終了となる。ビデオ教材のリスニング課題は質問が高度なわりに2回しか聞かせてもらえず、質問を事前に読んでおく時間も与えられないため東大入試のリスニングよりも条件が厳しい。やはり帰国子女向けの難易度だ。
帰国組が一瞬で回答をすらすらと羽ペンで書き上げ提出し、インドヨーロッパ祖語で楽しそうに談笑しながら、フィッシュアンドチップスの華やかな香りをふりまいて余裕にあふれた表情で教室を堂々退場していく一方で、私たち籠国(ろうこく)組は苦労して5問中3~4問の回答を書き上げ、涙と汗でしわくちゃになったプリントを疲労骨折でまともに動かせなくなった手で何とかつかんでそれをヘーゼルナッツ師のペットの伝書鳩に託し、松葉づえをつきながら身も心も満身創痍で去っていくのだ。そんな籠国組の様子を記したルポタージュが横山源之助『日本之下層社会』である。
そんな英語一列のG1クラスはまさに格差社会。先生の毒矢の犠牲にならなくとも、ストレスで盲腸炎になることは必至だ。

テストについても書いておく。テストはG1・G2・G3共通で、(G1はリスニングを鬼のように解かされたにもかかわらず)リスニングはなく共通テストのような選択問題のリーディングのみである。大問6つあるうちの5つは教科書本文からの出題となるため、いかに本文を暗記できたかがモノをいう。英語一列は昔「暗記一列」と呼ばれていたという記述をTwitterか青物横丁2丁目町内会掲示板かどこかで見たが、今もそう呼んで差支えないかと思う。

1Sで私はをとった。成績上位3割には入れなかったというわけである。これでG2かG3に落ちれる…と思っていたのだが、なんと次学期のクラス分けは平常点や課題を無視し、リーディングのみの期末テストの点数だけに基づいてなされるのである(インタビュー記事で英語部会の教授自身が公表していた)。そんなわけで私は、リーディング能力が高かったからというだけの理由で、リスニングとスピーキング能力が必要なG1クラスにまたしても振り分けられてしまったのであった。ストレスで心の盲腸が炎症をおこしてしまった。



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