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奈良原一高の伝説の写真集にして最高傑作、この秋刊行!

巨匠・奈良原一高の最初の写真集となる『ヨーロッパ・静止した時間』は、いまから55年前の1967年5月に鹿島研究所出版会より刊行されました。
デザインは杉浦康平。協力には勝井三雄の名もクレジットされています。

1962年に初めて渡欧した奈良原が、約3年間におよぶ欧州滞在中に撮影した写真には、ハイコントラスト、魚眼レンズ、コラージュ、長時間露光、特殊加工など、当時は正統なものと認められていなかった様々な技法が駆使されています。

奈良原を一躍時の人とした1956年5月銀座・松島ギャラリーでの初個展『人間の土地』では、長崎半島沖に浮かぶ人口の島・端島(通称:軍艦島)と、灰で埋もれた鹿児島・桜島にある黒神村を舞台に、互いに拮抗しあった「人間」と「土地」を、続く1958年9月の銀座・富士フォトサロンでの『王国』展では、北海道のトラピスト男子修道院を取材した「沈黙の園」と、和歌山の婦人刑務所を舞台とした「壁の中」という、それぞれ外部と隔絶された2つの空間を写し、自らも「パーソナル・ドキュメント」と呼んだ手法により誕生したこれらの作品は、斬新かつユニークなドキュメンタリー写真の傑作として高い評価を得ました。

これら初期の代表作により着実に写真家としての評価を得た奈良原が、【初めての写真集】として発表したのが本作の元にもなった『ヨーロッパ・静止した時間』です。
モノクロームとカラー、総135点によって編まれたこの写真集は、いわゆる欧州紀行といった類とは一線を画し、奈良原独自の視点で、目の前のヨーロッパを現実の存在としてだけでなく、日本人の心象風景と捉え撮影しています。
当時の本のあとがきには、以下のような文章が著されています。

人間はまぎれもなく死ぬことによって人生を完成させるのだ。
死こそ人生の重要な一部分としての役割を果たすのだと…… その時ぼくは死をひとつの存在として信ずることができた。
たち現われては消えてゆく彼らの歩みは、沈黙の中に現実的な時間を失っているようだった。
まるで一枚一枚の写真が近づいて来るみたいに、彼等はあまりにも遠い時間の吹き抜ける瞬間に落ちこんでしまっているようだった。
僕はこのようなよみがえるべき大きな時間の一点を、〈静止した時間〉と呼んだ。

著者あとがきより

時代の趨勢、撮影技法など、発表当時には賛否両論を呼んだと言われるこの写真集によって、芸術選奨文部大臣賞、毎日芸術賞、日本写真批評家協会作家賞、と名だたる賞を受賞。名実ともに奈良原一高の代表作になったと言えます。
しかしその後は、今日まで絶版の状態が続き、展覧会等で収録作品の一部を鑑賞することはできても、特殊とも言える造本もあるためか【本】の形として今日まで再販されることはありませんでした。
古書市場でも常に十数万円の売値が付き、それでも入手ができれば幸運という状態が長らく続いたため、その希少性も相まって伝説的な写真集となっていきます。

今回、奈良原一高氏の著作権管理を行う奈良原一高アーカイブズ協力のもと、当時のページネーションを生かした新たなページ構成、また写真集としての開きやすさ、手に取りやすさにこだわった造本による新装版としてまとめ直すのが、このたびの『ヨーロッパ・静止した時間 WHERE TIME HAS STOPPED』です。

特に、作品の流れとして大切な位置づけとなっている横位置で構成されたダイナミックな写真群を、観音開きという特殊製本により俯瞰して見ることのできるようレイアウトし、芸術的とも呼ばれるその写真表現、構成力を存分に味わえるように工夫しました。
巻末には、東京国立近代美術館 美術課 主任研究員を務める・増田玲氏による作品解説も収録。ブックデザインは、『王国 Domains』に続きグラフィックデザイナー・佐野裕哉氏が務めます。

55年という年月を経て新たな形でよみがえる奈良原一高・伝説の写真集にして最高傑作を、ぜひお手にとって存分にご堪能ください。

※本書は初版限定での刊行形態になり、現段階では再販の予定はありません。

【奈良原一高アーカイブズより】
大変お待たせいたしました。
今日現在まで奈良原一高アーカイブズへ再販等 沢山のご要望をお問い合わせ頂きました。
復刊ドットコム様により熟慮に熟慮の上 新たに<ヨーロッパ・静止した時間>の発行に至りました。
晩年 奈良原一高は写真集を出版するに当たり作家として作品を読者の方々にご覧頂く為に見開きページはなるべくのりしろを作らぬ様に構成致しました。
この度の<新・ヨーロッパ・静止した時間>ではその意向を汲み編集致しました。
55年間の時空を超え改めてお手元にお届け出来ることに喜びを禁じ得ません。
近代のテクノロジーを駆使したより美しい映像をご覧頂ければ幸いです。
奈良原一高アーカイブズ 代表 新美虎夫

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