見出し画像

鳥人間パイロットのトレーニング方法について

名古屋大学AirCraft21,22Pのとりとん(@fuku_tori)です。4月以降には絶対に書かないだろうと思ったので後輩Pへの引き継ぎをかねて記録に残しておきます。後輩Pをはじめ、これから鳥人間を目指す人、またパイロットを目指して日々トレーニングをされている皆様のお役に立てましたら幸いです。

注:この資料は2022春HPA交流会資料を一部改変し、補足事項を追加したものです。


パイロットの選定方法について

そもそもパイロットの選定方法にはいくつかのやり方があるが、鳥人間チームとして最も採用すべきなのは機体重量を含めたPWRである。同じPWRのP候補が複数人いたのなら体重が重い者を選ぶべきだ。その方が機体全体で見たときのPWRは向上する。しかしながら多くの場合機体諸元が細かく決まっていくのはパイロットが選定されてからであり、フレームのジオメトリしかり必要なスパンしかり、パイロットベースで決まっていく場合が多い。このため現実的にはパイロット単体のPWRで決めるべきに感じる。

ではパイロットとしてあるべきPWRはどれぐらいだろうか?

一般的に90分を越えるフライトをする際においてはパイロットの体重の3倍程度の出力で飛行することが望ましいとされる。これは瞬間的にL5の領域を複数回出すことなるPが短時間で酸素負債を解消するのにはL3の領域であることが必要となるからである。では3倍がL3の領域になるにはPWRはどれほど必要か?おおざっぱにいえば4.5倍程度である。性能が十分な機体であれば4.5倍程度の出力で十分に長時間フライトすることができる。昨今のパワーメーターの普及で鳥人間界隈でもパワートレーニングの概念が定着しつつあるが4.5倍ならば一年間トレーニングすれば簡単に達成することができるのではないだろうか。

未経験者がパイロットを目指すためにはなにをすればいい?

・ペダルを漕ぐ動作に慣れよう
まずはペダルを漕ぐ動作になれることから始めよう。最近の機体のほとんどはリカンベント型の機体なのでエルゴを漕ぐ練習をしよう。出力は求めないのでまずは低い出力で一時間ぐらい漕いでみる。慣れてきたら自分がちょうど一時間維持できるぐらいの出力で漕いでみよう。

・FTPテストをしよう
1時間エルゴを漕ぐのになれたらFTPテストをしてみよう。FTPとはFunctional Threshold Powerのことで一時間維持できる自分の出力を指す(大意。細かいことはパワートレーニングバイブルを読んでね)。これ以降のトレーニングはこのFTPを元に強度が設定されていくのでテストは全力で行うこと。FTPテストは一般的に1時間の全力走ではなく20分の全力走で行われる。20分の平均出力を0.95倍した値がFTPとされる。(これには懐疑的な考え方もあるが自分の場合は1時間計測との誤差は2%だった)

・パワートレーニングバイブルを読んでトレーニング計画を立てよう
先ほどから何回も出てきているがパワートレーニングバイブルを読んで自分に合った計画を立てる。Coggan式のパワートレーニングはこれを読めば大体理解できる。無理の無い計画で効率的にトレーニングをしよう。

パワートレーニングバイブル。これは読んだ方がいい


練習内容とその目的

前提:この文章はパワーメーターまたはスマートトレーナーを使用しており、zwiftやrouvy等バーチャルトレーニングプラットフォームを活用することができる環境を前提にしています。

大戦略:チームの目標とするフライトに対する戦略
1―5kmを目指すチーム:パワーの絶対値にフォーカスすること
5―kmを目指すチーム:PWRにフォーカスすること

小戦略:鳥人間パイロットとして個人で活躍するための戦略
PWRをあげること。大会サイドにアピールするにはヒルクライムなどのレースで入賞することが一番効くと考えた。

練習内容:
上記の目的からPWRを上げるためFTPをのばすトレーニングに重点を置いて練習計画を立てた。具体的にはSST付近で漕ぐトレーニングを行った。また、フライトの際閾値以上の力が要求される場面があるため閾値以上のインターバルトレーニングも行った。以下メニュー。

SST(short)
50分程度で終わるメニュー。FTPの96%ー89%で5分ごとのインターバルを4set。余裕があれば後半に105%-98%とかまで上げたりもしていた。TSS66

SST(med)
1時間半ぐらいのメニュー95%-87%のインターバルを6set。メインメニュー。TSS104。

2x15 FTP Intervals
FTPで15分ずつ漕ぐインターバル。鳥コン直前にやっていた。仕上がりの確認みたいな感じ。TSS71。

2x20 FTP Intervals
FTPで20分ずつ漕ぐインターバル。これも鳥コン直前にやっていた。仕上がりの確認みたいな感じだがかなりしんどい。扇風機とかつけずに琵琶湖の暑さを想定して練習していた。TSS101。

The Gorby
唯一の閾値系メニュー。110%-55%インターバルを5set。かなりしんどいが耐える。乳酸がたまってきた中でどれだけ動かせるか。TSS81。

これらのメニューに追加で練習最後に無酸素領域でのスプリントもしていたのでTSSはこれに+10ぐらい。あとはたまに外に乗りに行ってロングライドをする程度。

時期ごとの具体的な練習例

トレーニングばかりではなくレースも活用して欲しい。長期的な目標(鳥コン)に対して時期ごとに短期的な目標を明確にできる。
Ex.ヒルクライム→PWR、エンデューロ→スタミナなど。

8-9月
ベーストレーニング。帰省していたこともありスマートトレーナーが手元になかったので実装メイン。乗鞍が中止になったのでだらだらしてた。普段は1時間ぐらいだらだら走ってから30秒ぐらいの坂で20本インターバル。一週間に一回ぐらい150kmぐらいのロングを入れる。アワイチはいいぞ。

9-10月
10月の最初にヒルクライムレースがあるのでそれに向けて45分から1時間の練習してた。メインはSST。本当にSSTしかやってなかった。レース一週間前に実走の感覚を取り戻すために雨沢峠に登りにいった以外はすべてzwift。調整も殆どせずレース前日も普通にトレーニングしてた。
レース結果:箱根ヒルクライム/年代別3位(44’03)、野沢温泉ヒルクライム/年代別2位(37’42)
FTP:250w-45.5kg、PWR5.49w/kg(未計測、推定PWR)

10-11月
11月中旬に長い距離のレースがあったのでそれに向けてスタミナを鍛えてた。ベースはSST、週末に170-200kmぐらいのロングライド。11月初めにFTP計測して256w-46kg、PWR5.56w/kg。ナゴイチ(名古屋一周深夜徘徊with空力設計、フレーム班長、畠さん)とかで距離乗ってた。府大19P中村さんと大阪でロングライドしたのもいい経験になった。
レース結果:鈴鹿エンデューロ6時間ソロ/220km年代別2位
FTP:256w-46.0kg、PWR5.56w/kg(11月上旬)

11―12月
鈴鹿が終わってからなかなか調子上がらず。高いパワーが出せなくなってた(それはそう)。Twitterで流れてくる他のPさんたちのトレーニング報告見ながら焦って無理してトレーニングして若干オーバートレーニング気味のまま12月は終了。年末年始は無理がたたって風邪で2週間布団の中から動けず。やってきたことがほぼ無駄になる。
FTP:258w-46.0kg、PWR5.61w/kg(11月下旬)

1-2月
SSTベース。最初は200w設定が苦しかった。徐々に出力上げていきなんとか1月最後には10月のレベルまで戻すことができた。そこからSSTmedをメイン練習にして底上げ。ペラ製作と鳥コン資料に追われながら練習。2月上旬から中旬にかけて調子を落としていたのでかなり練習頻度が減った(3日に1回とか。普段は3日練習して1日レスト)。ただ、2月上旬の時点でPWRは5.8w/kgほど出ていたので調子が上がれば6倍狙えるんじゃないかという思いがあった。若干調子が上向いてきた2月下旬にFTP測定。やっと6倍超えた。この2ヶ月で一気に伸びた理由はしっかり調整できてたこと、昨年からやり始めた上半身の強化がやっと効いてきたこと、漕がない日には動き作りをメインに練習していたこと等が挙げられる。あと、12月入ってから測定してなかったのでその反動?
FTP:275w-45.7kg、PWR6.01w/kg(2月下旬)

終わりに

ここまでざっと書いてみたが低い強度の練習はあまり取り入れていない。堺・風車の会19Pの中村さんとは対照的なアプローチだと思う。中村さんがロングライドや長時間のローラーを漕いでおられるのに対し自分は短時間の練習しか殆どしていない。これからパイロットを目指す方、パイロットとしてトレーニングを積まれている方は自分に合った練習方法を見つけていって欲しい。

最後になりましたがこの記事がいろいろな方、そして将来の鳥人間のお役に立つことができれば嬉しいです。長々と読んでいただきありがとうございました。

コメントしていただけると嬉しいです。質問等あれば(Twitter:@fuku_tori)までお願いいたします。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?