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AKBグループや坂道グループを推していたオタクが地下アイドルにハマった物語

女性アイドル社会は、今まさに「戦国時代」を迎えている――――。

AKB48との出会い、「握手会」の衝撃

初めてAKB48を知ったのは、中学1年の頃だったように記憶している。当時は「会いに行ける」をコンセプトとしたアイドルグループとしか知らなかったが、年齢も上がるにつれ、その「ファン」と「メンバー」の親密な関係性こそが、「平成のアイドル」の1つの特徴/ビジネスモデルだと理解するようになった。

AKB48の生みの親である、作詞家の秋元康さんは、AKB48に続いて、その姉妹グループを全国各地の都市に作っていった。愛知は名古屋・栄(SKE48)、大阪は難波(NMB48)、福岡は博多(HKT48)、新潟は新潟(NGT48)、2017年には複数の県を跨ぐ形で、瀬戸内地方を拠点に活動するSTU48を立ち上げた。

そのアイドル事業は国内にとどまらず、海外にも及び、インドネシアのジャカルタ、タイのバンコク、台湾の台北などを拠点とする各グループの設立にも展開している。「AKB商法」とも揶揄される、CDに「握手券」を付属させ売り出すビジネスの在り方は、今日でもその健全性が問われているが、ここ10数年のアイドル文化を大きく変えたシステムでもあることは否定できない。「平成のアイドル」の1つの形は「握手会」という文化がはっきり示している。

思春期の私も周囲の友人と同じように、AKB48にハマり、やがて「アイドルオタク」として「握手券」を購入するに至った。高校1年生の時だった。当時は学生だったこともあり、大人が買い込むようなCDのまとめ買いは当然できなかったが、メンバーと握手をしながらお話をするという行為にとても興奮した。テレビで、携帯で見ていた憧れの「推しメン」と握手をしている、という状況に、である。「握手会」というイベントは、私に強烈な記憶と興奮を植え付けることとなった。

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坂道グループの誕生、そして「没入」

時は流れ、私は大学生となった。秋元康さんは、AKB48グループの事業と平行して、2010年代に入り、坂道グループという形で、新たな事業を開始した。いわゆる「乃木坂46」や「欅坂46」といったグループの誕生である。従来のAKBグループよりも、グループの色や方向性が明確にされた「坂道」シリーズのグループに、私も、自然な流れでハマってしまった。

大学生という身分から、高校生の時よりは比較的金銭にも余裕が出てきたため、私はシングルごとにCDを購入し、多くの若者が集う「全国握手会」「個別握手会」に幾度となく足を運んだ。

乃木坂46や欅坂46が若者に支持され始めた2010年代半ば以降、AKBグループの勢いの失速に伴い、坂道グループの「現場」は常に大混雑の地獄であった。1日に何万人という規模のファンが集結する握手会では、たった数秒の握手のために早朝から半日以上待つこともザラにあった。応援するファンの数が多くなるにつれ、「会いに行けるアイドル」は、単に「会いに行けるアイドル」としての像だけではなく、ある種「信仰」の対象となるような側面をも持ち合わせるようになった。「誰」を推すか、「何枚」の握手券を持っているか、「誰」に自分の顔を覚えてもらっているかでファンの中での自身のステータスが決まるようになった。2010年代半ば以降、乃木坂46や欅坂46は、2010年頃のAKBグループほどではないが、確実に「国民的アイドルグループ」としてのポジションに近づいていった。

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瀬戸内7県を跨ぐグループへの関心

その後、私は世代交代が進んでいた坂道グループへのモチベーションをやや落としながら、瀬戸内7県を拠点とするAKB48の姉妹グループ「STU48」にハマった。STU48は、1つの都市で完結するグループではなく、瀬戸内海を囲む7つの県全体を拠点とするグループであり、劇場公演は「船」という、今までになかった新しい形の秋元アイドルであった。同グループは瀬戸内地方出身のメンバーを中心に結成され、瀬戸内の文化を発信するというコンセプトのもと、活動の幅を中国地方、四国地方の7県に跨りながら広げていった。

私自身は、正直このグループで応援することを固定しようと思った。イメージもコンセプトも、楽曲もメンバーもどれもが素晴らしく、東京から離れているという地理的な問題を除けば、ほぼ好みに合致するグループだったからである。

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しかし、だ。コロナが日本に広がった。日本社会の全てが変わってしまった。

コロナによって、ライブや握手会等のイベントは開催不可能となり、オンラインでのイベントに切り替えられることとなった。コロナが蔓延しだした当初は、イベントがないよりは凄く有難いとのことから、オンラインイベントも楽しめたが、やはり「現地」の空気感の素晴らしさを忘れることはできず、徐々にSTU48への関心は薄くなってしまった。

新居歩美と出会う、「地下」と出会う

その時、私は1人の少女と出逢った。名前は「新居歩美(にいあゆみ)」。2020年夏、ライブプラネットという芸能事務所がアイドルグループの新メンバーを募集するということで、オーディションを開催したのである。彼女、そう、新居歩美は、そのオーディションに「彗星のごとく」現れ、他の候補生たちを圧倒する人気を誇り、晴れてアキシブprojectというアイドルグループに、同年秋加入することとなった。

【④-①】000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000aaaa000000⑤の①

そこからというもの、半年足らずで、多くの地下アイドルと出会い、地下アイドルの世界にどっぷりと浸かってしまうことになった。多くの地上のメジャーアイドルがオンラインのイベントを余儀なくされる中、地下アイドルは、政府・自治体の感染症対策に関する要請に従いながら、従来の箱イベントを継続していた。私は、その地下アイドルに「現場の楽しさ」を改めて見出し、すでに「依存」している。

地下アイドルの最も大きな特徴と言えば、やはり「メンバーとの距離感の近さ」であろう。もちろん、地上のメジャーアイドルも、先のAKBグループや坂道グループに見たように、握手会等の「接触イベント」はある。しかし、秒数等の制限があり、払った金額分に対して満足感がかなり得られるかと問われると、必ずしも「はい」と言えるものでもないのである。グループの人気が出れば、その「距離感」は自然と薄くなってしまうものである。

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地下アイドルのイベントの特徴

その点、地下アイドルは、ライブ・特典会(チェキ会)ともに、メンバーとの距離感の近さを常に感じられるのである。より具体的に書こうと思えば、次の点に集約される。

①イベント数の多さ
②ライブ、特典会のループ
③チェキ会の充実度

①については、単純にメジャーアイドルよりもライブの数が多いという点である。毎週土日祝には必ず何らかのイベントが入っており、加えて平日も、毎日とは言わずとも、週平均2~3日は夕方から夜の時間帯を中心にライブが組まれているグループが多いだろう。当然ながら、メジャーアイドルのライブよりも小さい箱で開かれ、金額もかなり安い。ミュージシャンが使う一般的な街のライブ会場から、Zeppレベルまで、多種多様である。GWやお盆、クリスマス、年末年始等の時期は、さらにイベントの数が増え、1日に何回もライブを回すグループが出てくる。

とはいえ、有名なメジャーアイドルのように、グループ単独でライブを開催することはほぼなく、他のグループとの対バン形式によってライブを開催することがほとんであり、所属事務所の枠を超えたフェス形式のイベントも連日数多く開催されている。つまり、1つのイベントにおける出演時間は長くないものの、出演するイベント自体の総数はかなり多い、これが地下アイドルの「現場」の特徴であり、またメンバーとの距離感の近さを語る上で、最も外せないポイントだと思われる。

②については、イベントの流れに関するものである。多くの地上のメジャーアイドルのライブでは、握手会等のイベントは抱き合わされていない。握手会は握手会単体で開催される。いわゆる「全国握手会」のように、ミニライブと握手会が両方実施されるイベントを除き、ライブはライブであり、握手会は握手会である。そして、秋元康さんがプロデュースするグループでは、圧倒的に握手会にその比重が置かれている。

一方で、地下アイドルのライブでは、ほとんどの「現場」で、ライブの後に「特典会」=「チェキ会」が開かれる。むしろ、この「特典会」こそがグループの大きな収入源であり、言わば「握手会」に当たる部分である。ファンはメンバーと握手こそしないものの、2ショットのチェキを撮り、そのチェキにサインや落書きをしてもらいながら30秒~1分ほどメンバーとお話しをする。1枚1000円~2000円ほどのチェキだが、これが地下アイドルのイベントでは非常に楽しい体験となっている。握手は形には残らないが、このチェキは持ち帰ることができるから、当然「形に残る」。

この「特典会」がライブと抱き合わされて開かれることが、またメンバーとファンとの距離感を一層近づけ、またイベントに通う充実感を増すことを助けるのである。そういった意味で、チェキ会は、値段こそ安くないものの、見方によっては握手会以上の満足感が得られる、重要な「交流イベント」の1つと言えよう。

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「地下アイドル世界」の裾野の広さ、優劣の無い世界

現在では、複数の地下アイドルグループの現場に足を運んでいる。決して、かつての地上のメジャーアイドルを否定するわけではない。「地上」と「地下」では、あまりにも世界が違い過ぎる。ただ、その違いは、「地下」の世界を覗いて初めて理解されるものでもある。

当然ながら、「メンバーとファンとの距離感」を重視するのも、人によって異なるだろう。遠くから眺めることにこだわりたい人もいる。それは否定しない。しかし、せっかくお金を出し、そのアイドルに自分の時間を割きハマるのであれば、よりメンバーとの関係性も親密なものの方が楽しいということも、おそらく事実ではないだろうか。

1つ確かなことは、「地上の世界」にいた時、「地下」はあらゆる面で「地上のアイドル」に劣った存在だと、勝手に卑下していた。知名度、パフォーマンス力、運営の金銭的体力・プロモーション力、楽曲のクオリティ...全てにおいてである。「地上に比べたら...」と思い込んでいた、この事実は否定できない。しかし、「地下の世界」を覗いて感じたことは、決して「地上」と優劣が簡単に付けられるほど、「地下」は容易にその差異が明確に分かる世界ではないということである。「人気」が出ないからメジャーデビューできない、「人気」がないから地上波の番組に出演できない、そのような理由は確かにあるだろう。ただ、「アイドル」そのものを自らの目で眺めた時、決して「地上」で輝くアイドルが万能であり、「地下」で活動するアイドルが劣っているかと問われると、それは違うと断言できる。

「地下」にも魅力的なアイドルはたくさんいる。「地下アイドル」を眺めて、今強く感じていることである。むしろ、「地上」のアイドルと異なり、「情報」を手に入れる場面・ツールが限られている分、そのアイドルのパーソナルなデータに鋭く反応しなければならない。星の数ほどいる「地下アイドル」の中で、自分の「推し」を見つけるためには、そのアイドルの様々な側面を調べ尽くす必要がある。

想像以上に「地下アイドル」の世界が深いことに、最近気づき始めた。海面に顔を出している氷の山は、海の底に眠る大きなそれと比較したら、ほんのわずかに過ぎなかった。だからこそ、皆「メジャーアイドル」に憧れるのだろう。我々の目には見えない海の底に、今日もたくさんのアイドルがいる。

AKBから始まったオタ活とやらも、地下アイドルの世界まで線路が伸びてしまっている。再び「地上」に戻るかもしれないし、このまま「地下」の住人になるかもしれない。「楽しさ」を追いかけることこそ、最も正しいアイドルオタクの在り方だろう。

明日の自分は、この「アイドル戦国時代」にどんなアイドルを発見し、どんなアイドルに熱狂するのだろうか。

(終)

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