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大正時代を考える~デモクラシーの隆盛と終焉に見る近代日本の分水嶺~①

こんにちは、ひよこです。今回はタイトルにある通り、「大正」という時代について考えてみようと思います。ご存知の通り、明治と昭和に挟まれた大正時代は、わずか14年と半年ほどしかなく、歴史上でも非常に短い時代だったと言えます。しかし、そのような「短い大正時代」は、現代社会を考える際に非常に面白い時代として映るのです。近代日本の歴史では、明治と昭和に注目が集まりがちですが、実はその間の刹那「大正」こそ、我々が歴史から学び後世に活かさなければならない教訓を伝えているのではないかと思うのです。今回、そして次回・次々回・まとめ回と、計4回に分けて、多くの人が歴史の授業では深く習わなかったであろう大正時代について考察していきたいと思います。

大正という時代

そもそも、「大正」という時代がいつからいつまでだったかを正確に知っている方はいるでしょうか。「大正」は、今からおそよ100年前の1912年7月30日から1926年12月25日の約14年半に当たります。明治が約45年、昭和が約64年続いたことを考えると、その期間はやはりとても短く感じますね。

一般的に、大正時代の特徴としては「第一次世界大戦への参戦」(=総力戦体制の萌芽)「政党政治の隆盛」(=藩閥政治の克服)「モダニズムの開花」(=西洋近代文明の浸透と伝統に対する見直し)等が説明されますが、なぜ「大正」という時代は短いながらも、興味深い時代なのか。それは「明治」を回顧しながら、「近代」を問い直す時代として位置づけられるからであり、言い換えるならば、「明治」という時代の特徴を検討し、「戦争の昭和」までの過程を検証するために非常に重要な存在だからなんです。

「大正」は「明治」から何を引き継ぎ発展させ、そして同時になぜ悲惨な戦争へと突き進んだのか。一見「平和な時代」と見られがちな「大正」の実像を通して、実は日本近代史の本質を知ることができるのです。

大正デモクラシーとは!?

大正時代の時代思潮を表現する用語に「大正デモクラシー」というものがあります。誰もが一度は歴史の授業で聞いたことがあるでしょう。今日では、大正時代の政治社会的、文化的特徴を「大正デモクラシー」と呼んでいます。「Democracy」(独:Demokratie)は「民主主義」「民主制政治」の意で、「大正」と頭に付けることで、大正時代の日本社会を覆った自由主義的、民主主義的風潮を指しています。

もともとこの「大正デモクラシー」とは1950年代に歴史学研究者の間で生まれた用語であり、1970年代以降の研究で頻繁に用いられたテクニカルタームでした。研究者によって「大正デモクラシーの時代」の期間は様々ですが、概ね大正時代を挟んで1905年~1931年までを期間とするのが通説とされています。1905年は日露戦争の講和条約であるポーツマス条約を締結した年であり、賠償金が貰えなかったことに端を発する民衆暴動「日比谷焼き討ち事件」が起こった年でありました。それは、一部の政治家だけが政治を動かす時代ではなく、日清・日露の二度の戦争を経て形成された「国民」の力が政治の方向性を左右する時代の幕開けを意味していました。日比谷焼き討ち事件で自身のパワーを噴出させた「国民」は、大正政変、米騒動においても同様に「力」によって「政治にモノ申す」姿勢を展開していきます。1931年は満州事変(柳条湖事件)の年です。32年には五・一五事件により犬養毅首相が殺害され、政党政治も終焉を迎えました。同時期には国粋主義団体が数多く設立され、メディアに煽られた「国民の力」(=世論)は日本を戦争の道へと誘(いざな)ってゆくのです。

しかし、先にも記した通り、「大正デモクラシー」の定義と期間は、研究者によって様々です。それはなぜか。つまり、「大正」をどういった側面・切り口から捉えるかによって、見え方が変化するからなんです。第二次世界大戦・太平洋戦争を経た昭和戦後から眺めた時、大正期のエリート知識人の多くは「オールドリベラリスト」と呼ばれています。これは、大正期に青年期・壮年期を過ごした知識人の多くが、戦争を経験し戦後の日本社会を作っていく世代であることを表しています。

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繋がっている「戦前」と「戦後」

戦後、先の大戦からの反省から思想的転向を図った者、あえて黙殺した者、大戦に至った歴史的事実と向き合いその過程を検証しようとする者...等、戦前・戦中の知識人は多種多様な立場を選択して生きてゆきました。

もう分かりますよね。戦前・戦中の日本と戦後の日本は決して断絶してはいません。両者は連続しており、戦前に日本をその知力・体力で牽引したエリート達は、戦後には若い世代に背中を見せるリーダー層として別の形で日本社会を牽引していったのです。

すなわち、大正時代を理解することは「戦後」を知ることであり、また現代社会を考えることなんです。では、具体的にデモクラシー的風潮が日本社会をどのように変化させ、人々の生活の何が変わったのか、見ていきましょう。次回は、日露戦争後から第一次世界大戦、政党政治の台頭までを時系列かつトピックごとに追っていきます。

(終)

※参考にした文献は、最終回の末尾に記します。

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