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読書記録『ex-dreams』「グーギー」

Holz Bauから3年。ガデン出版の第2弾は、最も新しい建築素材であるアルミニウムに着目してアメリカ建築をリサーチした。アルミニウムを活用した住宅や高層ビルから徐々にアルミニウムの未来的イメージが独り歩きして、やがてグーギー建築と呼ばれるロードサイドのダイナーへ、さらにはポストモダン建築へと発展していく。モダンからポストモダンへの転換期にあたる19のアメリカ建築と4つの日本の事例を、写真と図面、イラスト、漫画によって紹介する。
こうした多様な建築の理解を深めるため、論考やインタビューも含まれている。建築生産、建築構法が専門の東京大学の権藤智之による論考。『シェルター』の著者であり『ホール・アース・カタログ』の編集者でもあったロイド・カーンへのインタビュー。グーギー建築を代表する建築家アーメー ・デイビズの現在のパートナーであるビクター・ニューラブへのインタビュー。建築史が専門の東京大学、ハーバード大学のセン・クアンとの座談。建築家の塚本由晴との座談。さまざまな人との対話を通して、この捉えづらい建築に迫ろうとしている。

福島加津也+冨永祥子建築設計事務所が展開するインディペンデントな出版レーベル「GADEN Books」の第二弾である『ex-dreams』に、以前から気になっていた「グーギー建築」が掲載されていたので、読書。

「設計事務所が書籍をつくる」という点では、湯浅良介氏の『Houseplaying No.01 Video』やo+h booksの『青華―伊東豊雄との対話』が思い当たる。
こうした例がいくつも出てきている事自体も興味深いが、どの本も単なるポートフォリオではない、視点が異なる本であるという点も興味深い。

さて、『ex-dreams』では「アメリカのモダンからポストモダンへの転換期」につくられた建築を実際に訪れ、その背景を調査・考察したいくつもの論考が収められている。
前作『ホルツ・バウ』はドイツの木造建築のリサーチであり、ガデン出版の書籍は今まで光があまり当たっていなかった建築の流れを実際に訪れ、紹介するという点で他にない特徴を生み出している。

その時代にあった、ある種の明るさや夢への憧憬のようなものが建築としてどう表れていたのか、それを大判の写真や図面で体験できるのは非常に面白い。

この本の中でも、特に読みたいと思っていたのが「グーギー建築」についての記事だ。
「グーギー建築」は以前なにかの記事で読んで、その存在を知っていたのだが、日本語で読める文献はほとんどなく、またTwitterでも言及はそこまで多くないことを見るに「知る人ぞ知る建築」という印象を持っていた。

一方で、現代のファミリーレストランやディズニーランドのトゥモローランドなどグーギー建築の特徴を思わせる建築は、日本のあちこちで目にすることができる(本書では保土ヶ谷のハングリータイガーが紹介されている)。

また、本書でも名前が度々挙がる設計事務所アーメー&デイビスはデニーズやビッグボーイの原型をつくった事務所らしい。

延々とビッグボーイで会話する3人組を描いただけの作品『THE 3名様』やアーティスト・パソコン音楽クラブの『DREAM WALK』のジャケットには熱海のジョナサンを写したものが採用されていることから、グーギー建築の流れを受けたファミリーレストランのような建築が、人々から風景として一定以上の評価を受けていることは読み取れる。

「そのものの存在自体はあまり知られていないが、私たちの生活の風景には浸透している」という、奇妙なこの建築群たちのことについて長らく気になっており、それについての記事が載っていると知れば、買わないわけにはいかない。

「グーギー建築」とは建築家ジョン・ロートナーが設計した「グーギーズ・レストラン(1949年)」から名付けられたものだそうだ。
名付け親である編集者のダグラス・ハスカルは、そこにはっきりとした定義は与えなかったそうだが「あるイメージを直接的にではなく抽象的に表現することで実現された点」を指して、この建築を評価したそうだ。
それはヴェンチューリがラスベガスで見いだした「装飾された小屋」や「あひる」のどちらとも異なる。

しいて言うなら、グーギー建築はある意味では二者択一ではない複雑な様相を持っており、その中間に位置するような建築とも言えるのだろう。

グーギー建築はヴェンチューリのいう「ダック」とも「デコレイテッド・シェッド」とも異なる。建築家が捉えた時代のイメージを抽象化するという高度な作業によって建築作品に昇華させたものである。

149頁

また、語源となったロートナーがフランク・ロイド・ライトの系列にいる建築家であることも興味深い。
先に触れたアーメー&デイビスは下記のように呼ばれていたらしい。

"the Frank Lloyd Wright of '50s coffee shops."

https://en.wikipedia.org/wiki/Armet_Davis_Newlove_Architects

本書でも紹介されている「ダウニーのマクドナルド」は今や知らない者がいないファーストフードチェーンであるが、その一号店であるこの建築は、建築の力によって店の知名度を上げることが目論まれていたようで、そのエピソードからも建築への力の入れようが感じられる。


現にこの建築は1994年には文化財に指定され、資料館を併設しながら現役の店舗として運用されている。
こうした当時の人びとのお店への力の入れ込みようは、それこそ本書のテーマである「夢」が存分に詰まっていたはずであり、その結晶である「グーギー建築」が非常に興味深いものとなっていることは納得できる。

紙面幅の都合があるのだろうが、他にもどのような例があって、また日本で展開するとどのようなものが取り上げられるのか、今後の展開がわくわくするような内容の記事となっていた。

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