金子勇とWinnyの夢を見た 第10話 裁判 その2 地裁
※この記事は、Advent Calendar 2023 『金子勇とWinnyの夢を見た』の十一日目の記事です。
ファイル共有ソフト利用実態アンケート
2005年7月14日、第13回公判において社団法人コンピュータ・ソフトウェア著作権協会(ACCS)戦略法務室長の証人尋問があり、ファイル共有ソフト利用実態アンケートについて質疑がありました。(※1)
このアンケート結果が、Winnyで共有されるファイルのほぼ全てが著作権法違反であるという証拠となっていました。ファイル共有ソフトの利用者は、2004年4月時点で94万0千人。共有されているファイルの音楽関連で92%、映像関連で94%、コンピュータ・ソフトウェアで87%が著作権侵害に当たるという報告を出しています。
裁判では、2001年5月の調査結果について触れていますが、現在閲覧できる調査結果は、2002年から2012年まで10回行われたものです。第1回のアンケートについては、現在は調査結果のポイントのみ掲載されており、第2回以降については、詳しい概要がPDFでダウンロード可能です。(※2)
アンケートは、インターネット上の呼びかけで回答してもらったものです。
この手法は、低予算で手軽に行えて、集計も楽なのですが、回答者の属性が偏る場合が多くなります。
また、ダウンロードしたファイル名を3つ書いてもらい、その集計から著作権侵害となったファイルの割合を計算するというのは、明らかに間違った集計方法です。
ところで、この尋問が始まる4ヶ月前に、ACCSの専務理事、久保田裕氏は「Winnyがセキュアなら、ACCSは金子さんを応援する」という発言をしており、2005年3月23日に公開されています。(※3)
当時、このような意見がACCSの専務理事からでていたということに驚きますが、その1ヶ月後、2005年4月26日にWinnyの技術を活用して商品開発する株式会社Skeedが設立されます。この事業をACCSが応援したのでしょうか。探してみましたが、記録は見つかりませんでした。
金子勇のプログラム紹介
2005年9月15日の第15回公判では、これまで金子さんが作成してきたプログラムが披露されました。(※4)
その時使用したプログラムのダイジェスト動画が公開されています(※5)。この時ばかりは、金子さんはノリノリだったようです。
村井純教授登場
2006年2月16日の第19回公判で、慶應義塾常任理事、慶應義塾大学環境情報学部教授の村井純教授の証人尋問がありました。(※6)
村井教授は、インターネット上での共有のメカニズムは規模が大きくなるにつれて新しい技術を導入していく必要があり、Winnyの技術には学術的な意義が含まれていると考えたことから、講義の中で紹介したと述べました。
また、金子さんの逮捕・起訴によって研究開発にブレーキがかかってしまった。「情報通信の基盤を開発することと、それがどう利用されたかを結び付けて考えられるべきではない。開発すること、運用すること、それがどのように利用されるかということは、分けて考えるべきだ」と述べました。
流石の村井純教授の登場は、裁判所の空気を一変させたに違いありません。
ファイル共有ソフトの世界動向
2006年3月9日の第20回公判(※7)の最初に更新弁論があり、類似案件に関する世界的動向の説明がありました。
被告人意見陳述要旨
先の更新弁論の後、金子さんへの被告人質問が続きました。その中で、「アイデアをみえる形にしないといけない。論文にするよりも、実際につくることが得意」というところが、金子さんの技術者としての姿勢を言い表していますね。
また、Winny1は面白かったから作ったけど、Winny2は「義務感」だったと言っています。2ちゃんねるのトラフィック増加問題の解決に貢献しようという意味合いでしょうか。
2006年3月20日の第21回公判(※8)と2006年5月1日の第22回公判(※9)は、検察が金子さんを問い詰める反対質問でした。事前に壇先生にみっちり仕込まれた結果「事実をそのまま話したら良いんですね」と悟りに達していました。
意見陳述
そしていよいよ最終回、2006年9月4日の第25回公判(※10)が始まります。
弁護人側の最終弁論では、以下の部分を説明していきます。
Winnyが著作権侵害を助長するソフトであるという検察側の主張は、Winnyの客観的機能と、その利用実態は別にする必要がある。利用実態の1つを持って、客観的機能を論じることはナンセンスである。
調書にある「著作権侵害を蔓延させる目的」との記述は、自白の強要であり、警察の作文を押し付けたもので、任意性はなく、信頼性もない。これらの調書を証拠排除すべきである。
被告人宅で行われたのは、Winnyを使ったファイル送信実験であり、その実験が失敗し、立件するために申述書を書かせたものである。
正犯の公判で証拠として使用するために押収されたプログラムソースは、公判で用いられず、解析も途中で止まったままになっている。
検察側の誤った主張離床活動があった。
など、丁寧に説明した後、金子さんの意見陳述が読み上げられます。(※11)
金子さんによる意見陳述
壇弁護士は、「自分が無罪だとかそういうことは、弁論で弁護士団が言います。金子さんは、そんなことより、ただ、今、本当に伝えたいことを言いましょう」と金子さんに伝え、この2年間の金子さんの思いが書き記されました。
そして、平成16年(わ)第726号著作権法違反幇助被告事件の公判最後となる、意見陳述が読み上げられます。
内容はここで要約するより、下記URLの『壇弁護士の事務室』にある「被告人意見陳述要旨」から是非御覧ください。パスワードは、同ページに書いてあります。
※1 『市民裁判員先行記第30回/Winny事件第15回公判』, 情トラ, 2005-09-05
※2 『第1回「ファイル交換ソフト利用実態調査」』, 社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)社団法人日本レコード協会(RIAJ), 2002-05-29, https://www2.accsjp.or.jp/research/
※3 『Winnyがセキュアなら金子被告を応援していた~ACCS』, 杉浦正武 ITmedia, ITmedia Mobile, 2005-03-23
※4 『市民裁判員先行記第30回/Winny事件第15回公判』, 情トラ, 2005-09-05
※5 『裁判で記録した動画のダイジェスト』, 壇弁護士の事務室, https://danblog.cocolog-nifty.com/attorneyatlaw/files/kanekos.mp4
※6 『Winny開発者の裁判に村井教授が証人として出廷、検察側の主張に異議』, 三柳英樹, INTERNET Watch, 2006-02-16
※7 『市民裁判員先行記第37回/Winny事件第20回公判』, 情トラ, 2006-03-09
※8 『市民裁判員先行記第38回/Winny事件第21回公判』, 情トラ, 2006-03-20
※9 『市民裁判員先行記第39回/Winny事件第22回公判』, 情トラ, 2006-05-01
※10 『市民裁判員先行記第42回/Winny事件第25回公判』, 情トラ, 2006-09-04
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