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ハーバードでリーダーシップの授業を受けたら、起業の原点を思い出した

15年ぶりに受けたハーバードの授業

先日、ハーバードで「リーダーシップの授業」を受けてきました。

私は2008年にハーバードビジネススクールを卒業しているのですが、卒業後15年くらいすると「リーダーシップに関するプログラムをやるので来ませんか?」という案内が届くんです。

ちょうどリーダーシップについて悩んでいたところだったので、行ってみることにしました。

ボストンは完全に晩秋でした。

世界各地から集まったのは40代から50代の卒業生80人くらい。日本人は私を含めて2人でした。アメリカ人が7割くらい。アフリカ各国からも来ていましたし、トルコやパキスタン、サウジアラビアの人もいました。

世界各国からHBS卒業生が集まりました

授業の形式は、日本の学校みたいな一方的な講義とグループでの話し合いがミックスされたようなもの。

初日の15時から2人の教授による「プログラムイントロダクション」があり、それが終わると夜19時から「ディベロップメントグループ」というものを組んで話し合いをしました。

みんなで寮で暮らす

おもしろいのが、プログラムのあいだはみんなで寮に住むんですね。

寮では8人で1つのリビングを共有します。

1人1人個室はあるんですが、けっこう狭くて「部屋にいるよりリビングに来てみんなでいろいろ話をしなさいね」というつくりになっているんです。

静かな寮のリビングが「激論をかわす場」に

「それぞれのライフストーリーを共有しましょう」という課題が出たので、夜は8人で集まってひとりずつ自分の人生のストーリーを語りました。終わったのは夜の10時半ぐらい。

僕のグループには、ロンドンの有名なデパートのCDOをやっているカナダ生まれの台湾人とか、ロードアイランド州でファンドをやっている人、デザイン会社のCMOもいました。私立学校をいくつか経営しているメキシコ人もいました。

経歴だけ聞くと、そうそうたる人たちばかり。でも、それぞれみんな困ったり悩んだりしていて「ああ、世界中みんな同じように悩んでいるんだな…」と勇気がわきました。

寮のリビングでお互いの人生をしゃべるって、なんか青春感があるんですよね。すごく貴重な経験でした。

リーダーシップのスタイルを見直す

次の日は朝一からまたレクチャーを1〜2時間受けます。

内容は「自分のリーダーシップのスタイルを見直す」というものでした。

レクチャーは教授と対話しながら進みます

授業後に「これまでの人生の試練について書いてきなさい」という宿題が出たので、そのあと1時間半、また8人みんなでそのテーマについて話し合いました。

ちなみに私の「試練」は、やはりコロナのことです。こんな話をみんなに話しました。
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2020年、この先どうなるかぜんぜんわからなくなりました。

世の中が「密になる」ことに対してすごく慎重になって、私たちの事業である検診も忌避されるようになったんですね。「緊急事態宣言下では検診は中止」という政府の方針を受けて、決まりかけていた自治体との案件もどんどんキャンセルになっていきました。

「今年来年、どうなっちゃうんだろう……」

それに「コロナを恐れて検診を受けないような社会になるのも違うよな」と思いました。

「契約をキャンセルしたい」とおっしゃる自治体の人と話してみると「緊急事態宣言が終わったあとには検診を再開したいけど、まだ何とも言えない。そんななかでキャンサースキャンさんと契約を続けると最悪の場合キャンセル料が発生しても、それを払う予算がない」というお話しでした。

そこで私が決断したのは、

「検診が仮に再開しなかったとしても、契約した自治体からはキャンセル料をもらわない」

ということでした。

もし本当に検診がたくさん中止のままになったら、うちは大赤字になるリスクがありました。でも自治体から「キャンセル料がかかるなら契約自体をやめよう」と思われてしまうと事業は完全にストップしてしまいます。

契約を継続しておけば自治体にとっては緊急事態宣言が明けたとき、スムーズに検診事業を再開できる。

結果的に、緊急事態宣言後に検診が中止になることはほぼありませんでした。ほとんどの契約が継続できたことでうちは銀行からの融資も受けられ、お客さんにとってもプラスの展開になったんです。
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こんな話をすると、みんな前のめりで聞いてくれました。

Wish for the best, Plan for the worst

ちなみに、逆境の乗り越え方でいつも大切にしている考え方があります。

それは「Wish for the best, Plan for the worst」という考え方です。

つまり「ベストを望みながらも、最悪のケースを想定してプランニングしておく」ということ。

これが「ベストを望んで、ベストなプランを立てる」だと、状況が悪くなったときに慌てることになる。逆に「最悪になりそうだと思いながら、最悪を想定したプランを立てる」だとみんな暗くなってしまいます。

「まあなんとかなるだろう」と思いつつも、最悪の事態にいちおう備えておく。これが明るく逆境を乗り越えるコツなのだと思います。

自己犠牲=リーダーシップ?

授業を受けたり、まわりの人たちとリーダーシップについて語るなかで、自分のスタイルもわかってきました。

どうも私は「自己犠牲を払うことがリーダーシップの示し方である」といった考え方を持っているらしいのです。自分ではよくわかっていなかったのですが、まわりから指摘されて気づきました。

たしかに私は「社内で誰もやりたくないことをまず自分が率先してやるんだ」と思いがちな傾向があります。昔1年だけ会社が赤字を出したことがあるのですが、そのときは1年間、自分の月給を5万円にしていました。

グループのメンバーにこのことを話すと「なんでそうなるの?」という反応をされました。「つらいときは、別に助けを求めてみんなでやればいいじゃん」と言います。リーダーが1人で背負って失敗するくらいなら、みんなから力を借りればいい。合理的に考えればそのほうがいいだろう、と。

「たしかに」と思いました。

振り返ると、コロナのときも自分がいちばんつらい局面をかぶろうとしてきたように思います。それは「それがリーダーとしてのあるべき姿だ」と思い込んでいたから。「船長は船と一緒に沈むもの」みたいな考え方をカッコいいと思ってしまう。

まわりから指摘されて「ああ、こういう考えは日本人っぽい考え方なのかもしれないな」と思いました。

巻き込むための理由を考えよ

「どうすればいいのかな……」という顔をしていると、みんなから「good rationaleをつくれば?」と言われました。

rationaleというのは「理由」という意味。ようするに「巻き込むための、いい理由を考えなよ」というアドバイスでした。

「まわりを巻き込むことがいい/悪い」というより「うまく巻き込むためのコミュニケーションが取れるかどうかの問題でしょ?」と。みんなのアドバイスを聞いて、attitudeの問題でもあるけど、これはただのスキルの問題なのかもしれないと気づいたのです。

授業では「authentic leadershipを持ちなさい」という話も聞きました。

authenticというのは「本物」とか「混じりっ気がない」という意味。ようするに「自分ならではのリーダーシップスタイルを持ちましょう」ということです。

リーダーシップというのは、なにか「型」みたいなものがあって「これはいい」「これは悪い」ということではない。結局は自分らしく自然体でリーダーシップが取れることがいちばんいいんだよ、と教わりました。

「イージーライフ」ではなく「グッドライフ」を目指せ

「ポジティブ心理学」に関する授業も印象的でした。

これまでの心理学は「どうやって"アンヘルシー"な状態から"普通"の状態に戻すか?」をずっとやってきたといいます。

でも、セリグマンという人が心理学会の会長になったときに「マイナスをゼロに戻すアプローチじゃなくて、いかにこれからハッピーになるかについて、心理学者はぜんぜんやってこなかったよね」という話をしました。

「マイナスをゼロに戻すアプローチを続けていても、ハッピーになる研究はできない。それはまた別のアプローチがあるはずだ」と。

ハッピーになる要素のひとつとして、彼は「meaning」を挙げました。つまり「どういう意味があるか?」「どういう意義があるのか?」が幸せになるためには大切だということです。

真に幸せになるためには、楽しいことだけをやっていては不十分だ。楽しいことだけやっていても、そこにミーニングがなければ幸せにはなれない。

たとえば毎日ネットフリックスだけ見て過ごしていても、それは「楽しい」かもしれませんが「ミーニング」はあんまりないでしょう。

逆に日々の仕事はストレスがあったり不安だったりして、楽しいことばかりではないけれど、そこにはミーニング、意義があるわけです。そういう「ミーニングフルライフ」のほうが幸せなんだよ、と教えてもらいました。

教授はこう言いました。

「楽しいばかりの"イージーライフ"ではなく、意義のある"グッドライフ"を目指しなさい」と。

命を救う「バンド」を率いる

ハーバードでの4日間のプログラムの最後にやったのは「リーダーとしてのパーパスステートメントを書く」というものでした。

自分がリーダーシップを取るパーパス、つまり目的です。「それさえ唱えていれば、つらいことがあっても意義を持って頑張れる」と思えるような、そんなパーパスを言葉にしましょう、というエクササイズでした。

パーパスは「自分にとってしっくりくるものであれば、それがまわりにピンと来なくても、ユニークなものでもいい」ということでした。

ちなみに僕はこう書きました。

Lead the band that saves lives.

「人の命を助けるためのバンドを率いる」という意味です。

僕はずっとミュージシャンになりたかったんです。子どものころからバンドをやりたかった。

でも考えてみれば、それは別に「バンドをやりたい」ということよりも「すごく気の合う仲間たちと、同じ釜の飯を食って、同じ目的のために毎日一緒に頑張る」というライフスタイルを送りたかったんだ、と気づきました。

これまでは「バンドをやりたい」という夢をあきらめて会社の経営をやっているんだと思っていました。でも、いまの会社こそが自分にとっての「バンド」なんだと気づいたんです。「ああ、夢、あきらめてなかったじゃん」と思いました。

我々は人の命を助ける仕事をしています。人の命を助ける「バンド」のメンバーを率いているのが私です。

つらいときに音楽で救われることがありますが、私が音楽をやっていたときも「元気のない人を救いたいな」とかそういうことを考えていました。その意味では、いまの仕事で人の命を救えているわけです。

そういう思いに至って「そうか、自分の長年の夢が叶ったんだな」と思いました。それ以来、このパーパスを思い出すたびに「仕事せねばならんな」という熱がふつふつと湧いてくるようになりました。

ふと出てきた、メモの切れ端

ボストンへの出発前。

今回のプログラムの準備のため、昔の書類をあさっていると、その中から「初心」という殴り書きをした紙が出てきました。

そこには「キャンサースキャンで何を成し遂げたいか」を40個くらい書き出していました。当時「これは忘れないようにしよう」と僕がしまい込んでいたものでした。「予防医療を社会インフラとして根付かせる」とかそういったことがつらつらと書かれていたんです。

それを見て「あんま変わってないなあ」と思いました。「成長してないなあ」とも思いました。と同時に「初心を忘れていないということでもあるな」と思いました。

目の前のことに追われて忙しくしていると初心を忘れそうになることがあります。けれども、少し時間を作って自分と向き合う時間を作ると原点や初心を思い出すことができる。

いつでも立ち戻れる「変わらない場所」の再確認ができた。これも今回ハーバードに行ってよかったことのひとつです。

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