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「市民」から「移民」になるということ【BREXIT】

イギリス総選挙の月12日まであと数日。
そもそもこの総選挙は、10月31日が期限だったEU離脱を叶えられなかったジョンソン首相が「民意を問う」として発案したことが発端だ。

イギリスでは、選挙カーも走らなければ選挙ポスターも見ることはない。イギリス在住の私も一度も見ておらず、テレビやネットがなければ総選挙があるということも気付かないかも…。

主に経済や国境についての議論が中心のブレクジットだけれど、イギリスに来て私が一番衝撃を受けたのがEU市民の声だった。EU出身者はビザ不要でEU圏内を行き来し、居住、就労する自由がある。EU市民(EU citizen)として広く認識されている彼らはイギリスに約360万人、人口の5%以上を占める。

「ブリクジットが起こると、私たちは、EU市民(EU citizen)からEU移民(EU migrant)になります。市民から移民になる。この重みがわかるでしょうか。私たちはLIMBO(地獄の辺土)にいるのです。」
イギリスに来てすぐ参加した多文化共生イベントで聞いた、ドイツ出身のスピーカーの言葉だ。EU離脱となると、EU市民がイギリスに住み続けるためにはビザの取得や行政登録が必要となる。外国人になるということ。移民になるということ。ニュース番組で見聞きするだけでは感じられない生の声を聞き、何ともいたたまれない気持ちになったことを覚えている。

つい先日、このトピックについてNHKが特集を組んでいた。       このインタビューは私が住む街 ブラッドフォードで行われ、なんとクレアさんは私のお知り合いの方だった。

EU離脱を問うた国民投票から3年半が経ち、イギリス国民にも疲れが出てきているもの事実。しかし、イギリスにいてもブレクジットの議論はほとんどテレビでしか聞こえてこない。今目の前にいるイギリス人がどう考えているのか、語らう機会や知る機会がほとんどない。私が日本のメディアで見聞きしていた頃は、国民が熱心に議論しているのかと思っていたが、誰もブレクジットについて触れようとしなかった。
聞いて返ってきた答えは以下の通り。笑

「もう3年半、宙ぶらりんだ。この状況に飽き飽きしてるんだよ。離脱するならするで、さっさと進めてほしいもんだ。」

「お願いだから、ブレクジットの話はしないでよね!」

私は平和学を学んでいる以上、どちらかと言えば周りにはEU残留派が多い印象を受けるが、離脱はの姿はあまり見えてこない。と言いながらも、私の住んでいる街は1980年代以降の工業の空洞化で経済が大打撃を受け、2016年の国民投票で離脱への投票率が60%超であったのだが。

イギリスがEU離脱を回避する方法は、まだなんとか残されている。
1.保守党(ジョンソン首相が所属)が選挙で負け、他の野党が勝つ。
2.選挙で勝った野党が2度目の国民投票を実施する。
3.2度目の国民投票でEU残留派が過半数を取る。
長い道のりである。野党がEU残留を支持しているわけではなく、各党にそれぞれ賛成・反対が存在しており、国民投票をすることが彼らのマニュフェストの中にあるということだけである。また、国民投票をしたとしても、EU残留派が多数を取るとは限らない…。

イギリスは選挙活動で街頭演説やポスター掲示をしないが、お宅訪問の文化がある。知り合いのおばちゃんは、支持政党のお手伝いでお宅訪問をしていると教えてくれた。
「一軒一軒お家を回って、選挙に行きましょうね!って声かけをしているの。まだ変えられる、まだ遅くないって、諦めてしまった人たちにも気付いてほしいのよ。前回の国民投票が接戦(52%対48%)だったみたいに、一人一人の声が重要なの。」

完全に分断されたイギリス。
第二次世界大戦以降最大の混乱と言われている、イギリスの健闘を祈って。

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