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「オレンジ」 フランシス・ポンジュ

阿部良雄 訳  双書・20世紀の詩人  小沢書店

「オレンジ」(前半部分抜粋)

 海綿(スポンジ)の場合と同じく、オレンジの中にも、圧搾の試練に耐えた後、もとの容積を回復しようとする望みがある。しかし、海綿がいつも成功するところだのに、オレンジは絶対に成功しない、つまり、オレンジの房は破裂してしまい、その組織は切れてしまっているからだ。外果皮だけが、その弾性のおかげで、ゆっくりもとの形態に戻って行く。その間に、琥珀色の液体がこぼれ散ったのであり、その際たしかに、甘美な清涼の気と芳香とが感じられはするが、-また多くの場合、種子を未熟のまま排出することの苦い意識をともないもするのである。

 抑圧にうまく耐えられないのにもこうした二つの流儀があるわけだが、そのどちらかの肩をもつべきなのであろうか?-海綿(スポンジ)は筋肉でしかなくて、空気にでも、清潔な水にでも不潔な水にでも、何にでも一杯になる、この軽業はいやらしいものだ。オレンジの方が趣味は良いが、あまりにも受動的である、-この香わしい供犠…それは、抑圧者にとってあまりにも有利な勘定をするというものだ。
(p15-16)

「物の味方」から「オレンジ」。この詩集好きなんだけど、その味わいをうまく表現できない。
それは、フランス語の単語や慣用句の意味の重なり合いや、発音や韻を理解できていない(例えば「圧搾」は「表現」とも関わっている、など)こともあるが、またある一定の解釈を仮にでも当てはめてしまえば移ろい行く味わいが壊されてしまう、ことへの忌避感も、自分の中にはある。

対象物とそれに結びつく語を徹底的に見つめ直し、安易なイメージを振り払い、底に詩情を掬い集めていく。「物の味方」に一貫してある姿勢…この後、オレンジとレモン(フランス語ではシトロン)の発音が、そのものを食する時の口の形から来ている…とかの話題になる。
あなたはスポンジ?それともオレンジ?
(2022 04/21)

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