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「遠読 〈世界文学システム〉への挑戦」 フランコ・モレッティ

秋草俊一郎・今井亮一・落合一樹・高橋知之 訳  みすず書房

読みかけの棚から
読みかけポイント:「スタイル株式会社」の章のみ。

近代ヨーロッパ文学ーその地理的素描
世界文学への試論
文学の屠場
プラネット・ハリウッド
さらなる試論
進化、世界システム、世界文学
始まりの終わりークリストファー・プレンダーガストへの応答
小論ー理論と歴史
スタイル株式会社ー七千タイトルの省察(一七四〇年から一八五〇年の英国小説
ネットワーク理論、プロット分析
訳者あとがき
索引

スタイル株式会社というのを読んでみた。世界文学云々より、多量のデータを扱った「遠読システム」の具体例かと思って。
確かに1740年から1850年の英国小説タイトルのデータ処理はしている。でも、そこから引き出している興味深い省察は、データ処理の結果というより、(前もって)比較文学学者モレッティの素養から来ているのではないか、と勘繰ってしまう。
ま、それは置いといて、この期間(データ蓄積があるという理由らしい)では、十語を超える長文のような「要約」タイトルから、短縮化が進み、だいたい6語くらい(英語で)、固有名詞、地名、地名+固有名詞。社会的な作品の場合、冠詞+名詞はある程度逸脱したものを想起させる(「吸血鬼」とか)が、そこに形容詞が加わると名詞は慣れ親しんだものに置き換わる(「捨てられた娘」など)。

  形容詞がなければ、私たちは冒険の世界にいる。形容詞がつくと、今度は安定が脅かされている家庭生活の真っ只中だ。
(p263)


そしてこの期間の最後くらいから、抽象名詞や隠喩を使ったタイトルが増えてくる。

  十八世紀的な要約は、小説の内容に関する多くのことを読者に伝えた。それはその通りだが、しかし、そうしたタイトルは読者の知性に訴えかけはしなかった。それに対して、読者を戸惑わせ、読者に挑戦することで、隠喩は、その最初の一語から、読者の小説に対する積極的な関心を引き起こす。製品を売りたいというときには、積極的な関心こそが、何よりも欲しいものである。
(p272)


(なんかもう一箇所引用しときたいところがあったような…)
今の日本の(小説に限らない様々の)タイトルは、やや十八世紀中頃のように、長くなり、説明的で、日常会話的なものが増えてきているような。その中にはそのタイトルをいい意味で反転し裏切るものもあるとはいえ、やはり「知性的」ではなくなっている感が。製品を売るとば口まででいいかのような…
(2020  02/03)

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