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思考停止が己の身を滅ぼす

はじめに

最近、とあるVtuberの方がファンに暴行されるという痛ましい事件が起きニュースとなりました。
被害者の方に安息の日が一刻も早く訪れることを願うばかりです。
このような事件が起きると、世の皆様はこのように考えると思います。
「個人情報はしっかり守らなければならない。ファンと親密な関係となる職業なら尚更である」
これはもちろん正しいことであり、何も間違ったことではありません。
ただ、本当に怖いのは、この考えがあらゆる状況で正しいと思い込み思考停止に陥ることです。
それがかえって自身の身を危険に晒す場合もあるということです。
今回はそういった思考停止の怖さを、例えを交えて話をさせていただこうと思います。

Aさんの例

あるところに、AさんというVtuberをされている方がいたと仮定します。
Aさんはほとんど毎日のように配信活動を行い、それなりに多くのファンがついていました。
そしてVtuber活動も軌道に乗り、収入も入ってくるようになりました。
そんなある日、Aさんは喉の不調を感じ始めます。
ついにそれは自覚できる喉の痛みへと変わりました。
今までにもAさんは何度も病院へ行き診察を受けていましたが、いつも原因が分かりませんでした。
そして今回もやはり原因は分からず、経過観察となってしまいます。
多くのファンの方が心配する声をかける中、Aさんはファンに向けてSNSにこのようなことを書きました。
「お医者さんから普段何をしているか聞かれたけど、Vtuberをやってるなんて言えなくて誤魔化しちゃった」


上記の話をどのように捉えるかはその人により違うと思います。
Vtuberを見ている人にとってはよく見かける話なので、特に違和感を覚えずに受け止める方も多いかもしれません。
ただ、Vtuber界隈特有の「絶対に身バレしてはいけない」という文化を知らない方は違和感を持つのではないでしょうか。
それでは、この話の何が思考停止の怖さなのかを書いていこうと思います。

その隠し事はいったい誰のためなのか

Aさんの例で問題になる可能性があるのは、「医師が診察して原因不明な状況下にも関わらず、患者であるAさんが聞かれた質問に対して隠し事をしていること」です。
医師の質問は興味本位で聞いているわけではありません。
それが診断と治療に必要な情報だから聞いているわけです。
職業や生活習慣といった情報は、その基本的なものと言っていいでしょう。

分かりやすくするために例を挙げます。
仮に、Aさんの喉の痛みが根治が困難なものだと診断されたとしましょう。
その場合にAさんが職業を隠していたらどうなるでしょうか。
職業として配信者をしていると医師が分かっていれば、仕事に影響が及ばない治療方法をなんとか考えようとするはずです。
しかし、もしもそれを隠していると、根治を優先して結果として声が変わってしまう可能性がある治療方法を選ぶかもしれません。
つまり、本当のことを言わなかったことで自分の声が永久に失われる可能性だってあるのです。
(実際には必ず医師から治療方針を説明されるはずなので、そうはならないと思いますが。そして職業を誤魔化していたことがバレて医師から怒られると思いますが)
声を失うという可能性が極めて低いものだとしても、その結果を招きかねない「職業を医師に隠す」行為が正しいことだと果たして言えるでしょうか。
上記は分かりやすい例として挙げましたが、これ以外にも色々と弊害は起きるはずです。

ただ、意図せずに患者が医師に情報を正確に伝えられないことはあります。
例えば、両腕が痛いにも関わらず左腕はあまり痛くないから患者が右腕の痛みしか言わないなどです。
「右腕だけが痛い」と「両腕が痛い」では、その原因として医師が考える候補が変わるかもしれませんよね。
ただ、患者としては右腕の痛みを治してほしいから言っているわけで、左腕の痛みのことを意識して黙っているわけではないのです。
患者からすれば「最初からそう聞いてくれればいいのに」と思うでしょうし、医師からすれば「最初から全部言ってくれればいいのに」と思うでしょう。
このように、正直に答えるつもりでもお互いのボタンのかけ違いで上手く情報が伝わらない可能性があるわけです。
それなのに患者側がわざと情報を医師に伝えなければ、正確な診断や治療はさらに困難となるでしょう。
もっと言うなら、医師が患者の言葉に不信感を持ち治療に支障をきたす可能性すらあります。
つまり、医師に対して患者が故意に隠し事をしても何も良いことはないのです。

リスクを天秤にかける

「そうは言っても、自分のことを話したのがきっかけで事件に巻き込まれるのが怖い」という方もいるかと思います。
しかし、医療従事者には厳格な守秘義務が課されています。
医療行為に際して医療従事者が知り得た情報が外部に漏れることはありません。
もちろん100%大丈夫と断言できるわけではありませんが、それを言い始めると郵便を出すことすら出来なくなってしまいます。
結局は相手をどこまで信用できるかという話に落ち着くわけですが、そこで「個人情報は一切誰にも話してはいけない」と極端なことをしてしまうと自身の首を絞めかねません。

ここでAさんの話に戻りましょう。
Aさんは自覚できるほどの喉の痛みがあるのに、その原因が分からないという状態が続いています。
多くの人が経験しているとは思いますが、痛みが出るほどの怪我や病気は既に深刻な事態の場合が多いです。
身近なものだと虫歯がそうですし、重い病気なら癌だってそうでしょう。
自覚できる痛みがあるにも関わらず原因が分からないというのは、深刻に受け止める状況の可能性があるということです。
ただ、このあたりは私も医師ではないのであくまで想像で書いている部分です。
それでも、その可能性は誰でも思い浮かぶはずです。
自身が配信者を仕事として続けたいと思うのであれば、その商売道具である喉の異常には敏感でなければならないでしょう。
医師に自分が配信者であることを隠したいという気持ちは私の経験からも理解できますが、自分が本当に守らなければならないものが何かをきちんと考えるべきだと私は思います。
「医師に話した個人情報が漏れて自分に危害が加わる」というリスクと、「このまま原因不明で喉が治らない、場合によっては生命に関わる可能性がある」などのリスクを天秤にかけないといけないということです。
思考停止してしまうと、この「天秤にかける」という行為をしなくなってしまいます。
自分の身が別の角度からの危険に晒されていることに気がつけなくなることが、この例での思考停止の怖い部分と言えます。
ただ、Aさんはもしかしたらそれを天秤にかけた上で、配信者であることを医師に隠すという決断を下したのかもしれません。
そうだとしたら、そこはAさんの判断を尊重すべきでしょうね。

(本論からは外れますが、本当に話したくないことなら「その情報が治療に不可欠なものなのか」を医師に確認して折衷案を見つけるべきだと私は思います。誰しも人に言いたくないことの一つや二つはありますし)

最後に

今回は思考停止の怖い部分を例を挙げて話をさせていただきました。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
なお、この記事に書かれていることが正しいと思い込まないでください。つまり、思考停止しないでください。
あらゆる状況において常に頭を使って考えることを忘れないようにしてくださいね。

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