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福毛が大変申し訳ありません

まず最初にお詫びをしないといけない。

何にお詫びすればいいのかもよくわからないのだけど、もしかしたら読む人を不快にさせたり気持ちよくさせてしまうかもしれない。

それぐらいよくわからないものを書こうとしている。

予防線は無事に張ったので書き進める。近所のホームセンターに予防線を売ってるかと思って買いに行ったら売り切れてたので、昔、犯人を倉庫に拉致したときに使ったキラキラテープの残りを代用した。眩しい。

で、何を書こうとしてるのか。無駄な文字数は使うな結論から書け簡潔に読む人はファーストビューを秒で判断して読む読まないを決めてるんだぞと、あれほどnoteの先生方が言われてるのにもうここまで無駄に292文字も費やしてる。

つまり、それぐらい書きづらいことを書いてるのだ。

ある日の夕暮れだった。原稿を打つ手が疲れたのでSiriに頼んでTwitterを読み上げてもらっていた。

平和なついった世界の出来事が読み上げられ、つかの間の心の安らぎを得られることに僕は満足していた。誰かが3時のおやつにカレーを食べたり、猫が綱渡りしたりしている。福毛。

ん?

いまSiri何言った?

福毛?

福毛?

僕のタイムラインにいる誰かが「福毛」についてつぶやいてた。福毛って何だ? すごく気になる。仕事が手につかない。Siriとついった世界に寄り道してたくせに。

いや、そんなの知らない言葉に出会うのはいまに始まったことじゃない。

ライターをやってるからといってこの世のすべての言葉がインストールされてるわけでもないことぐらいわかってる。だから、初見の言葉と遭遇したらふつうに調べる。紙の辞書でもネットでも。

ただ「福毛」は、そういう調べて知っていい種類の言葉ではない気がした。直観的に。理由はとくにないけど。

大丈夫。僕は自分に言い聞かせる。こういうときのために神様は僕にどうでもいいことを無駄に考えるくせを残してくれたんだ。

まず「福」とついてるのだから、たぶん悪いものじゃない。ただ、だからといってそんなにみんなが持ちたいラッキーアイテム的なものでもないんだろう。なぜなら、いままでその言葉に出会ったことがなかったから。

僕の狭い人生であることを差し引いても、さすがに「福毛」が良きものであるならどこかで目にしたり耳にしてるだろう。そうではないということは、悪いものではないけれど大っぴらに他者に見せびらかすのは憚られる類のものなのかもしれない。

何より、そいう気配を漂わせるのは「毛」とセットになってる言葉だからだ。「福毛」。

おそらくふつうに考えて、人間の体毛とか毛髪の「毛」だろう。

毛の話はデリケートだ。そんな気配と毛配がする。ふざけてるわけではない。触れてほしくない人だっている。

そうか、と僕は思う。本当は少し奥ゆかしい毛なのかもしれない。あるいは、なくなったら困ってしまう毛。いいことがあったときだけ出現する毛。

だからこそ、せめてその呼び名を「福毛」にして大事にしているのだ。きっとそうだ。そして僕が知らないだけで、みんな福毛をインスタに載せて「いいね」し合ってるのかもしれない。

けど、これからもたぶん「福毛」を調べることはないと思う。福毛について書いてくださいという仕事でもない限り。

だから僕の中では「福毛」の言葉だけがそれなりの印象度で残り続ける。実体がなく言葉だけの印象を持ち続けるというのも、それはそれで変な感じもするけれど。

そして僕のタイムラインには「福毛」を持つ人がどこかにいる。

僕の知らない福毛。

ただ、ちょっとだけ淋しいのは僕が福毛を持っていないからなのか、それとも福毛という言葉を知ったのにその使い道がわからないからなのか判断がつかずにいる。