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炭素繊維の最新研究

https://pubs.acs.org/doi/10.1021/jacs.3c02504

こちらの最新論文を紹介します。
タイトルはポリアクリロニトリルから炭素繊維への炭化過程での波打ったグラフェンネットワークの生成です。


新しいポイント1: カーボンナノチューブを試験管代わりに

 炭素繊維は1本0.005mmです。グラフェンというのは六角形蜂の巣構造の炭素のシートで1枚0.0000003mmで、それが無数に重なりあってできています。重なり合い方が非常に複雑で実際にどうやって配置されているかわかりませんでした。例えばX線を使うと一部規則性の高いところが調べられるので規則性が高い領域は0.000002mmの広さとかわかりますが、それだけです。他には電子顕微鏡を使うこともありますが、厚みが0.0001mmもあるのでシートが重なりすぎてわかることは少ないです。
 そこで、カーボンナノチューブを試験管代わりに使います。カーボンナノチューブはグラフェンシート1枚のサイズなので、シート1枚だけをその中に入れて顕微鏡観察ができます。
 そうは言ってもカーボンナノチューブはチューブが閉じているのでそれを分子レベルでこじ開けて、見たい化学物質を分子レベルで入れる必要があります。

新しいポイント2: 新しい化学物質

カーボンナノチューブに入れるものとして純粋に全く同じ構造の物質を入れることが反応を見るうえで重要です。ある物質を9個並べたようなものを使ったのですが、世界で初めての物質だったので、初めて合成しました。いつもは医薬品を合成している方にこのためだけに作ってもらいました。

新しいポイント3: 炭素原子1粒1粒を見る電子顕微鏡

 カーボンナノチューブを観察する技術は最近レベルが上がってきました。これまではなんとなくチューブ状だとわかるレベルだったものが、原子一粒一粒を観察できるレベルになってきたのです。カーボンナノチューブは原子レベルのサイズ感だと常に微妙に動いているので短い時間で撮影しないとピンぼけします。試験管の中の物質も動いているのでピンぼけします。たまたまうまく引っかかって止まっているものがきれいに撮れます。
 そのような奇跡とともに、電子顕微鏡メーカーの最高技術をデモ的に使って、世界最高レベルにきれいに撮影できました。
 また、 1000度以上に加熱しながら、その変化していく過程を写真に収めています。これも失敗の連続で奇跡のような写真が撮れました。

わかったこと: 炭素繊維はなぜ強いのか

 炭素繊維はグラフェンシートが重なっているだけでなく、波打ちながらも相互につながっています。この波打っていることを原子レベルで直接観察しました。グラフェンシートは世界で最も強い材料です。グラフェンシートがネットワークを構成しているので、炭素繊維はグラフェンの良さをそのまま出せています。
 炭素繊維の種類の一つで強度が低めのピッチ系炭素繊維というものがあるのですが、そのグラフェンシートはうねってなく単に重なっているだけのようです。すると、シートはどこまでも続く訳ではないので、その端で壊れて弱くなってしまうということです。
 近年、炭素繊維の強度は上がって、使われている製品がどんどん軽量化しています。このような世界最先端の技術が惜しみなく投入されて、さらに高強度化が進んでいきます。


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