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炭素繊維を研究開発して20年。学術論文、特許、講演など多数発表。 https://si…

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炭素繊維を研究開発して20年。学術論文、特許、講演など多数発表。 https://sites.google.com/view/fumihikotanaka/

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  • 炭素繊維マガジン

    炭素繊維記事をまとめています。

最近の記事

炭素繊維とイノベーションのジレンマ

炭素繊維にはレギュラートウとラージトウという形態差があり、これらの観点から「イノベーションのジレンマ」に基づいて、新製品の導入と既存製品の維持に関する戦略的課題を考察してみる。 レギュラートウの既存市場 レギュラートウは、従来の炭素繊維の使用分野で成功を収めてきた。 既存市場への製品提供は安定しており、収益を安定化させている。 技術的には成熟しており、競争が激化している。 ラージトウの新市場 ラージトウは1990年ごろから本格的に新興メーカーが開発を進めてきた。物価の

    • 炭素繊維の最新研究

      https://pubs.acs.org/doi/10.1021/jacs.3c02504 こちらの最新論文を紹介します。 タイトルはポリアクリロニトリルから炭素繊維への炭化過程での波打ったグラフェンネットワークの生成です。 新しいポイント1: カーボンナノチューブを試験管代わりに  炭素繊維は1本0.005mmです。グラフェンというのは六角形蜂の巣構造の炭素のシートで1枚0.0000003mmで、それが無数に重なりあってできています。重なり合い方が非常に複雑で実際にど

      • 炭素繊維とツイッギーの時代

        ミニスカート流行のきっかけとなったツイッギーブームだが、1967年に東レの名物宣伝部長、遠入昇が来日を企画している。当時、ナイロン繊維を販売拡大させようとしており、パンティストッキングの素材であるナイロン繊維の拡販に有効と閃いたためである。当時、膝上までのストッキングが主流であったが、ミニスカートではそれを吊るものが見えてしまって格好悪く、一大買い替え需要が期待されたためである。 この時代は3大合繊と呼ばれる、ナイロン、ポリエステル、アクリルが日本に導入された時代である。東

        • 炭素繊維と「舟を編む」

          炭素繊維は樹脂と一緒に用いることで性能を発揮する。通常、繊維だけを配置して製品を作ることはない。それは、繊維の位置がずれると設計通りの性能を発現しないからである。そのため、繊維を編んで織物にするか、さきに樹脂を染み込ませてペタペタと適度にくっつくようにしてしておく。後者の材料はプリプレグとよばれる。幅1mほどのシートがロール状になっている。 最近では、プリプレグを10cm幅ほどに細くさいてテープ状にして、それを上手く巻いていくことでより軽く、強い材料が作られている。例えば、

        炭素繊維とイノベーションのジレンマ

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        • 炭素繊維マガジン
          11本

        記事

          炭素繊維と電線

          田舎では古い区画で細い道が多く、区画整理により道路の拡張が行われることも多い。そのときに電柱の移動と電線の架け替えに時間を有している。 電柱は30−50m間隔で設置されており、場所によってはもっと細かい間隔となっている。電柱は歩行の邪魔となって安全上も好ましくないことと、景観も損ねるため、撤去していく方向である。その手段として地中化の話もあるが、費用面で現実的ではなく、間引きが一つの改善案ではないかと考えている。 電柱を間引くためには電線が強くて軽い必要がある。電線は電気

          炭素繊維と電線

          炭素繊維開発初期の歴史

          炭素繊維は現在ほとんどアクリル繊維を出発原料としているが、レーヨン繊維が当初有望と見られており、アメリカの大手化学メーカーであるユニオンカーバイド社のレーヨン系炭素繊維のニュースを見て日本の炭素繊維研究が始まった。アクリル繊維に一手間かけると非常に優れた炭素繊維になると気がついたのは1959年、日本人である。 ユニオンカーバイド社ではレーヨン系炭素繊維の研究過程で1942年にアクリル繊維も取り扱ったことがあるようだ。1942年というのは日本で初めてアクリル繊維が基礎検討が行

          炭素繊維開発初期の歴史

          炭素繊維と木材

          木材の強度 木材にも多くの種類があるが杉を例にすると繊維方向に押しつぶす強度で23MPa、年輪が成長する方向に1MPa、接線方向に0.7MPaである。繊維引張方向には55MPaである。これは無欠陥の数値であって、節などの欠陥を含むと大幅に低下する。炭素繊維の引張強度は最も一般的なもので5000MPaであるので100倍ほど異なることになる。 木材の変形しにくさ 変形しにくさを弾性率というパラメータで表現されている。杉を例にすると、繊維方向に7GPa、年輪成長方向に0.6G

          炭素繊維と木材

          炭素繊維のひと束の細さ

          炭素繊維は一本0.005から0.007ミリメートルであり、とても細いのでしなやか。そのため、1000から50000本まとめて作られている。1000本の製品だと1.1から1.2ミリメートルとなっており、織物にしたときに非常に細かい織り目になっている。製品として小さいボールペンでは、こうしたものが使われている。一方、カバンのように大きな製品では織り目が1cm間隔となっている。拡げ方によるが、だいたい12000から24000本束ねられた炭素繊維が用いられる。 織物になっていること

          炭素繊維のひと束の細さ

          炭素繊維と酸素

          炭素繊維の構成元素はほぼ炭素である。にもかかわらず、酸素が極めて重要な役割を果たす。 炭素材料を製造するには1000度を超える温度で処理するため、酸素が混じると燃えてしまう。そこで、酸素を抜いた後、窒素を流しながら熱をかけていく。酸素を抜くには真空/窒素導入を複数繰り返すか、窒素加圧/常圧を繰り返すかを行うことが一般的である。ところが、温度を上げながら窒素を流すことで炉内酸素を置き換えて実験しているとなぜか強い炭素繊維ができた。原料を増やすと再現しない。温度を上げる過程の温

          炭素繊維と酸素

          炭素繊維と宇宙エレベーター

          炭素繊維の引張強度の最大値は18GPa(ギガパスカル)である。1平方ミリメートルの断面積あたり約1800kgのものをぶら下げられるということになる。 宇宙エレベーターとは、静止軌道上までワイヤーで繋がっていて安価に宇宙空間に物資を運搬できるものである。静止軌道まで重力が強く、離れるほど遠心力が働くので、バランスウェイトでバランスさせる。 重力が地球の40%である火星を考えると7万キロメートルものワイヤーが必要となる。重力と遠心力のバランスを解くと、長さ方向に断面積を変更す

          炭素繊維と宇宙エレベーター

          新材料としての炭素繊維

          可動機器の材料としては古くから木材が用いられてきた。木材は主に炭素と酸素と水素からなり、水にも浮く軽量性があるにもかかわらず、堅くて勁い材料である。 しかし、大型の資源は限られた量となっていることに加え、木炭は鉄の生産の燃料および原料となっていたことから木材を取り尽くしてしまったのが産業革命期である。大航海時代末期、材料不足から船舶の製造において材料の鉄への変更が行われた。それが鉄の生産を促進した。燃料は石炭が用いられるようになったが、鉄鉱石の還元剤としては石炭由来のコーク

          新材料としての炭素繊維