見出し画像

消費税の思い出。

きょうは10月1日。消費税が10%になる日である。

朝、Suica で電車に乗った。最寄りのカフェでコーヒーとベーグルを買って出社した。持ち帰りなのでたぶん、このコーヒーとベーグルは軽減税率の対象なのだろう。そもそもカフェの支払も Suica で済ませており、レシートも受けとっておらず、なんの実感もない。

最初に消費税が導入された1989年、ぼくは高校生だった。

もう、めちゃくちゃに怒っていた。竹下登(当時の総理大臣)ふざけるな、と憤っていた。働いてもいない自分が少ない小遣いのなかから納税することにも腹が立っていたし、納税者にするんだったら選挙権を与えろ、とも思っていた。「消費税反対」の具体的意思表示をする手段がないことに、心底納得がいかなかった。ぼくが政治のニュースを真面目に見るようになった背景には、間違いなくあのときの消費税があったといまでも思う。

その年におこなわれた参議院選挙では、野党のみんなが消費税反対を訴えていた。社会党の大躍進は、土井たか子委員長の名前をとって「おたかさんブーム」と呼ばれた。高校生のぼくは、もしも自分に選挙権があったらどこの政党に投票するのか、かなり真剣にニュースを見て、新聞を読んだ。怒れる若者として、政治意識に目覚めた少年として、家族の誰よりも政治報道にのめり込んだ。

しかし、考えれば考えるほど、怒れる若者はおのれの俗人っぷりを痛感することになる。その年の参議院選挙には、あの男が出馬していたのだ。



そう、アントニオ猪木その人が。


スポーツ平和党なる、なんだかよくわからない政党を立ち上げたアントニオ猪木は、「国会に卍固め」「消費税に延髄斬り」というこれまたよくわからないキャッチフレーズというか、公約めいたものを掲げて出馬していた。出馬にあたって国会前に仮設リングを建て、かかしみたいな「消費税人形」に延髄斬りをかますパフォーマンスをやっていたこともおぼえている。

政治意識に目覚め、もうすぐやってくる少子高齢化社会、その社会保障費を支えるための直間比率(直接税と間接税の比率)の是正、あるいは利権の巣窟となっている無駄な公共事業費、当時社会を揺るがしていたリクルート事件など、消費税にまつわるさまざまな政治イシューを猛勉強したはずのぼくは、認めざるを得なかった。

なんだかんだ言って、いまおれに選挙権があったら猪木に投票すると。

おれの政治意識は、しょせん「プロレス好き」のおれに負ける程度のものなのだと。そんな自分が悲しく、悔しく、情けなく、同時に愛おしかった。



いやー。正味の話、あそこで猪木が出馬していなくて、しかもインターネットや SNS みたいに視野狭窄と扇情を後押しするツールなんかあったりしたら、けっこう面倒くさいイデオロギー野郎に転んでた可能性、なくはないんですよねー。

アントニオ猪木さんに感謝です。

壁に耳ありジョージとメアリー。
173

古賀史健

ライター。バトンズ代表。著書・共著「嫌われる勇気」「古賀史健がまとめた糸井重里のこと。」「20歳の自分に受けさせたい文章講義」など。週日更新しています。http://www.batons.jp

古賀史健(2018)

古賀史健の note、2018年分です。
1つ のマガジンに含まれています