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揚げものは蒸しものである

きのうの夜、餃子を食べて思い出したんですけどね。ああ、そういえばこれもあれだなあ、と。

もう何年も前に、料理評論家の方とお仕事させていただいたときに教えてもらった、天ぷらとはなんぞや、という話です。その人がおっしゃるわけですよ。「古賀さん、調理法ってことで考えたとき、天ぷらは何料理だと思う?」と。当然こちらは「揚げ料理、ですよね?」と答えますよね。すると、待ってましたとばかりに首を振るわけです。「天ぷらはね、蒸し料理なんだよ」と。

油で揚げるとはどういうことか。

とりもなおさずそれは、脱水である。高温の油の中に放り込むことで、熱せられた衣の水分が急激に蒸発していく。だから、べたべただった衣がさくさくになる。これは揚げているのではなく、脱水しているのだ。しかも、脱水が完了した衣は、具材の水分が逃げるのを許さない壁となる。水分の逃げ場を失った具材は、脱水できない具材は、自らの水分によって蒸しあげられていく。こうして、外はさくさく、中はふわふわの天ぷらができあがる。わかるかね、古賀くん。天ぷらの具材として水分の多い海老やら茄子やらが適しているのは当然のことなんだよ、と。

いや、実際はこんな料理漫画の偉いひと口調でもなく、やさしく丁寧に教えてくれたのですが、なるほどなあ、と思いました。だからこそ、天ぷらは油から引き上げられて衣が具材の水分を吸っちゃわないうちに、ばくばく食べなきゃいけない。最後のおたのしみとして後まわしにするなんてもってのほか。いきなりかぶりついてこそ、天ぷらを天ぷらとして楽しめるのだ、と。

それで考えると、すべての点心がそうであるように、あの分厚い皮につつまれた焼き餃子も、立派な蒸し料理なんだよなあ。こういう「ある対象の本質を突き詰めていくと、別の対象に移行する」みたいなこと、いろんな分野にありそうですね。

あ、トップの写真は福岡名物の「うなぎのせいろ蒸し」です。