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ほしくなかった未来。

ドラえもんのひみつ道具でいちばんほしいものはなにか。

四十歳代以下の人間なら、誰もが一度は議論や自問をしたことのある問題だろう。ぼくも当然考えた。タイムマシンは、あんまり興味がない。未来の自分を見るのはこわかったし、過去なんて存在しないに等しい小学生だ。恐竜の時代を訪ねるような科学的ロマン主義も、当時のぼくは持ち合わせていなかった。タケコプターも、まあいいや。もしもボックスという反則技を別にするなら、やっぱりいちばんほしいのは、どこでもドアだ。

月並みな小学生であるぼくは、月並みにそう思っていた。


どこでもドアを欲する最大の理由は、遅刻である。

あれを使ってアメリカに行きたいとか、パリや東京に行きたいとか、そんな欲はない。ただただ、遅刻ギリギリまで布団のなかにいて、始業ベルが鳴る直前に学校に行く。いまより1時間、よけいに眠ることができる。なんというか、それはもう、よだれが出るくらいにすばらしい夢だった。


しかしこれ、こと仕事に限った話をするならば、半分実現していると言えるのではないだろうか。ぼくはいま、目が覚めたら最初にスマホを開く。メールやメッセンジャーを確認し、必要に応じて返事を書く。おおきめの事案が発生している場合には、歯を磨く前からパソコンを開き、だらしない寝間着のまま仕事をはじめてしまう。これって学校(仕事)の直前まで寝ていると言えることは言えるわけで、インターネットは、ぼくらに「労働のどこでもドア」を提供してしまったのではないか。そして困ったことに、その未来的な現実世界を、ぼくはちっともよろこんでいないのではないか。


いま、ぼくがいちばんほしいのは「ほんやくコンニャク」ですね。旅行先で外国人とおしゃべりするのはもちろん、犬や猫とおしゃべりしたいです。

こいつがなにを考えているのか、知りたいです。