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歌のようなひと。

むかし、西田敏行さんに「もしもピアノが弾けたなら」という歌があった。

阿久悠さん作詞のヒットソングで、愛する女性への想いをなかなか言葉にできない男が「もしもピアノが弾けたなら、想いのすべてを歌にしてきみに聴かせることだろう」と嘆く、そんな内容の歌だ。


それでときどき思うのだけど、世のなかには「歌のようなひと」がいる。日々の仕事が、営みが、同じ世界に生きているという事実が、まるで遠くに流れる歌のように響き、応援歌のようにじぶんを励ましてくれる、というひとが。

ああ、あのひとはきょうも働いているんだなあ。きょうもごはんを食べ、水を飲み、お風呂に入り、パジャマに着替えて、生きているんだなあ。風邪を引いたり、足をくじいたり、いろいろありながらも、明日を向いているんだなあ。

「すべての芸術は、音楽にあこがれる」という有名なことばがあるけど、ぼくは「歌のようなひと」にあこがれるなあ。ただ生きて、ただ働いていることそれだけで、誰かの応援歌になりえるようなひと。

応援歌ってことば、ずーっとばかにしてきたけど、ぼくの人生、どれだけたくさんの歌に応援されてきたことか。小説のない世界でもなんとか生きていけそうな気はするけど、歌のない世界はちょっとつらいよね。