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おれがうどんを出すのなら。

会社の近くに、いい感じのうどん屋さんを見つけた。

かき揚げとちくわ天

食べてみて、なかなかいいじゃないかと思った。また近いうちに行ってみよう、今度は釜玉うどんにしてみよう、なんて思っている。ことによると明日にでも行ってしまうかもしれない。いい感じのうどん屋さん。いい感じのそば屋さん。会社の近くにそれがあるのは、とてもうれしいことだ。

同じ麺類でありながらラーメン屋さんは、すこし違う。たとえば、どうだろう。いい感じの、醤油豚骨ラーメンを提供するお店があったとする。おいしく食べる。ぜんぜん悪くないよ、いい店だよ、と思う。

しかしながらラーメンは味の幅がべらぼうに広い食べもので、ひとつの店舗だけで日々のラーメン欲を満たすことがむずかしい。当日の気分や腹具合によって「あの店のあれじゃないと満足できない!」みたいな欲があり、そのあさましさはうどんやそば以上にはっきりしている。

一方、うどんやそばは(最上級を求めなければ)そこそこのお店でも十分に満足することが可能で、立ち食いのチェーン店でさえ、完食後には「うどん食ったなー」「そば食ったなー」と思える。うどん欲を満たし、そば欲を満たすことができる。

これにいちばん似ているのは、コンビニのおにぎりであろう。コンビニのおにぎりで、露骨にまずいものは少ない。チキンライスおにぎりなど、よほど珍奇な種類でないかぎり、たいていのおにぎりには「おにぎり食ったなー」の満足がついてくる。

じゃあ、自分がお店をはじめるとして、いちばんむずかしいのはラーメン屋なのか。うどん屋やそば屋は簡単なのか。

そんなことはないだろう。むしろ「うちの特徴」を出しにくいうどん屋さんのほうが差別化はむずかしいだろうし、奥は深いだろう。おそらく味つけよりも素材や産地レベルの勝負になり、つまりは仕入れの勝負になり、知識や人脈や営業力やといった、「厨房の外」でのがんばりが必要になってくるだろう。

おれはなんの心配をしてるのか。

空腹と、昼に食べたうどんの思い出にまかせてキーボードを叩いていたら、こんな話になっただけである。まあ、無理やりに教訓を引き出そうとするなら、多くの人は「自分の厨房」で勝負をしたがるし、腕に覚えのある人ほど厨房の外を軽視しがちだけれども、ほんとうに大切なのは「厨房の外」なのだ。最後はそこが、問われてしまうのだ。専門知識とはなんの関係もない、役に立つとは思えぬ教養みたいなものが。