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もうひとつのジャイアントキリング。

ジャイアントキリング、ということばがある。

のちにイスラエル王となる若き日のダビデが投石器を用いて巨人ゴリアテを倒した逸話にもたとえられる、大番狂わせの慣用句だ。他のスポーツ界では「アップセット」の語が好まれるのに対し、サッカー界では「ジャイアントキリング」の語を耳にする機会が多い。きのうのW杯ロシア大会における日本 vs. コロンビアは、まさにジャイアントキリングといえる試合だろう。

試合の展開そのものは、意外なことだらけだった。

開始早々にPKのチャンスを得て、それを確実に決めたこと。しかも相手DFが一発レッドで退場になり、そこから85分間も相手が10人だったこと。ゲームプランの変更を迫られたコロンビアが、前線からの守備をほとんど仕掛けてこなかったこと。自陣に深く引き込んでのカウンター狙いに賭けていたこと。おかげで日本は、(おそらくハリルホジッチがいちばん嫌ったであろう)横パスやバックパスをくり返しながら攻撃の糸口を探る、ザック時代の日本式サッカーを存分に展開できたこと。そうした、ボールを「持たされる」展開のなかでセットプレーから失点し、チーム全体が浮き足立ったところで運よく前半終了の笛に救われたこと。名将ペケルマン監督が、勝ちきるための賭けとして、調子のよかったキンテロに替えて故障中のハメス・ロドリゲスを投入したこと。右サイドに入ったロドリゲスが、想像以上に動けなかったこと。あわてて裏に抜ける選手として本田の元同僚バッカを投入するも、こちらもうまく機能しなかったこと。そして本田のCKから、大迫が見事なヘディングシュートを決めたこと。試合開始早々に退場者を出し、主力選手が不慣れなポジションにつかざるをえなかった事情を差し引いても、総じてコロンビア代表のコンディションが悪すぎたこと。

もともと日本代表というチームは、自信をもって「おれたちのサッカー」を展開しようとしたときほど危なっかしくなる。矛盾した言い方になるが、強いときほど惨敗を喫し、弱いときほど大健闘する、とても過渡的で不安定なチームだ。


【日韓大会】
選手を子ども扱いし、徹底的に管理したトルシエJAPAN。
……ベスト16進出

【ドイツ大会】
いわゆる「黄金世代」を揃え、選手に自由を与えたジーコJAPAN。
……グループリーグ敗退

【南アフリカ大会】
本田を1トップで起用し、ガチガチに守備を固めた第二次岡田JAPAN。
……ベスト16進出

【ブラジル大会】
史上最強と謳われ、「おれたちのサッカー」を体現していたザックJAPAN。
……グループリーグ敗退


これは戦術的な問題だけではなく、年齢的な問題もあるだろう。ベテラン中心のチームだと短期決戦の勢いに乗れず、若手中心のチームだと勢いに乗りやすい。大会期間中に、ぐいぐい成長していきやすい。……という経験則から考えるに、今回のあまりにもベテラン中心のチーム編成では危ないんじゃないかと思っていたのだけど、少なくともきのうの試合にかぎっては、そこも想定外だった。


ここで再び、「ジャイアントキリング」ということばを考える。


代表チームのような、しかもW杯というとんでもないプレッシャーにさらされる大舞台のなかで、なにより痛快なジャイアントキリングは、メディアやファンの「手のひら返し」なのかもしれない。

オセロの角っこをとって、盤面全体がガラガラガラーッとひっくり返るような快感。口を開けば批判ばかりしてきたあいつが、あの人が、そして世間やメディアが、素知らぬ顔で手のひらをひっくり返し、わっしょいわっしょいしてくるときの、それ見たことか感。プレッシャーを愛するリスクテイカーたちは、そのジャイアントキリングを求めて、きょうも自分を追い込んでいるのかもしれない。凡庸で保守的なぼくにも、若干ながらその成分はある。

あのPKと一発レッドを「幸運」と見なし、まだまだ手のひらを返しきれていないファンや識者は大勢いる。さあ、日本代表の選手たちよ、次のセネガル戦を勝ちきってみんなの手のひらをひっくり返してやれ。


ジャイアントキリングとは、「手のひら返し」につけるべきルビなのだ。



壁に耳ありジョージとメアリー。
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古賀史健

ライター。バトンズ代表。著書・共著「嫌われる勇気」「古賀史健がまとめた糸井重里のこと。」「20歳の自分に受けさせたい文章講義」など。週日更新しています。http://www.batons.jp

古賀史健(2018)

古賀史健の note、2018年分です。
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