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虫歯とフランスパン、そしてコーヒー。

人生で何度目なのだろう。また歯医者通いがはじまった。

そもそものきっかけはフランスパンだった。おおきなフランスパンにかぶりと噛みついたところ、歯の詰めものが剥脱した。剥脱という語がこの場合に正しいのかわからないけれど、要するに詰めものが取れた。のみならず、その歯が割れた。歯をへし折るほどに頑強なフランスパン。ぼくのバカボン脳でのフランス人といえば、ジダンやアンリ、ベンゼマやポグバ、それからもちろんプラティニといったサッカー選手が真っ先に思い浮かぶのだけど、彼らの歯は、よほど丈夫にできているのだろう。


せっかくだからこの際、ほかの悪い歯もぜんぶ治しておきましょう。


フランスパンとフランス人の関係を考えているうちに、歯科医はそんな段取りを語りはじめた。二十年くらい前に入れたパラジウム合金の下が、すなわち銀歯の内部が、どうも虫歯になっているようだと彼はいう。なるほどレントゲンの拡大写真を見ると、指摘された部分は色が薄くなっており、空洞なのかなんなのかがあるっぽい。

おかげできょうは朝から銀歯を外し、虫歯になっている部分を削り、あたらしく入れるセラミックの型どりをし、白い仮詰め剤を入れ、元気に職場復帰している。

ところがこの仮詰め剤が、ぼくは苦手なのだ。うすーく漂う薬品臭、うすーく舌を刺激する酸的ななにか。そして固いのか柔らかいのか判然としない、硬化したチューイングガムみたいな歯触り・舌触り。

おかげでいま、コーヒーがまずい。

ほかの食べものも大概おいしくないのだけれど、おいしくないということばでは足りないほどにコーヒーがまずい。歯みがき直後のコーヒーもひどい味がするけれど、それにも増してまずい。


コーヒーって、意外と繊細な飲みものなんだな。

かろうじて学びや教訓をひねり出すとすれば、それくらいである。だからきっと缶コーヒーはミルクや砂糖を大量投入して、その繊細さをごまかしにかかるのだ。あのベタベタを入れずんば、まずさが際立ってしまうのだ。

きょうは、会社に泊まり込んで原稿の仕上げに取りかかる予定である。