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ミックステープをつくるように。

いったい何本のテープをつくったことだろう。

学生のころ、毎週のようにミックステープをつくっていた。いまのことばで言えば「プレイリスト」なのだろう。90分とか120分とかのカセットテープに、自分が好きな曲を好きな順番で入れたテープだ。往復で2時間近い通学のあいだ、ずっと自作のミックステープを聴いていた。思えばあのときの経験が、ぼくに「編集」や「構成」というものの基本を教えてくれたのかもしれない。A面の1曲目はどの曲からはじめるか。そこからどんな曲につないで、どこに最初の山場をもってくるか。そして聴くひと(自分)の気持ちをどのように導き、どのように裏切り、どんな曲をクライマックスとしつつ、ラストをどう締めくくるのか。120分のテープ1本つくるのに4時間くらいかかっていたけれど、高校から大学にかけていちばんの趣味といえばテープづくりだった気がする。

しかし、MDやCD-Rの登場によって、より簡単にプレイリスト的なものがつくれるようになった途端、ぼくの熱は醒めた。iTunesに至ってはさらにそれが顕著で、いちおういくつかのプレイリストはつくっているものの、曲順を守って再生することはほとんどなく、適当な曲を適当にシャッフル再生するばかりの日々が続いている。

MD以降はA面・B面という世界観がなくなり、iTunes以降は時間の制約さえもなくなってしまったからだ。120分なら120分、片面60分のなかにどんな世界をつくり、どんな構造をもたせるかを考えることが、ぼくにとってのたのしみだったのである。



「A面の頭はさ、やっぱ『ア・ハード・デイズ・ナイト』とか『ドライブ・マイ・カー』みたいな曲ではじまりたいじゃん」

「アップテンポの曲が続いてきたから、このへんで『イン・マイ・ライフ』あたりがほしいじゃん。バラードがほしいっていうより、あの時間を止めるようなイントロがほしいじゃん」

「そんで『ヘルター・スケルター』をもってきたあと、最後に『アイ・ウィル』とかで締めると最高だよね」

一冊の本をつくるとき、あるいは多少の長さをもった原稿を書くとき、ぼくはミックステープをつくるように全体の構成を考えている。そういう趣味をもたなかったひと、またカセットテープそのものに触れたことのない世代のひとたちに対して、この感覚をどう説明すればいいのか、最近ずっと考えている。そしてレコード世代、カセットテープ世代の人間であったことの幸運を、噛みしめている。