ぬくもりの勘違い

サッカー部だった高校生のころ、Tくんという友達がいた。

Tくんの家は、高校からずいぶん遠かった。電車とバスを乗り継いで、1時間以上はかかる。それでもみんな、なにか理由を見つけてはTくんの家まで出かけ、泊まっていた。

……理由は明白だ。彼の家には、男子高校生の永遠のあこがれである「きれいなお姉さん」が住んでいたのだ。

女きょうだいを持たず、しかも男子校に通っていた当時のぼくには、同じ空間に「きれいな女のひと」が住む人生なんて、想像することもできなかった。

さて、そんなTくんの家で遊んでいたある日のこと。冷たいものでも食べたのか、急にお腹が痛くなったぼくは、トイレを借りることにした。

けっこうなお金持ちだったTくんの家には、2階にもトイレがある。話によるとそのトイレは、ほとんど彼とお姉さんしか使っていないらしい。おしっこで借りることは何度もあったけど、便座に腰を下ろしたのは、それがはじめてだった。当然、便座のあたたかい最新型のウォシュレットだ。

しかし、まさか世のなかに便座をあたためるトイレがあるなんて、想像すらしたことなかった当時のぼくは、馬鹿だなあ。座った瞬間にそれを「お姉さんのぬくもり」だと思い、にやにやのへらへら。ひとり頬を赤らめ、なんだか悪いことでもしてるような罪悪感のなか、静かに用を足したのだった。


いや、そろそろ便座の温かさがうれしい季節ですね。というお話です。

出る釘は浮かれる。
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古賀史健

コメント1件

おもしろいなぁーーー文章、うますぎる。
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