あのひとはどうやって食っているんだろう?
なんでもない道を歩いていると、「どうやって食っているんだろう?」という店に出くわすことがある。
たとえば、ぼくの自宅の近所にある煎餅屋。名物の気配はないし、これといった評判も聞かない。せまい店内はいつも薄暗く、お客が入っているのも見たことがない。けれどもいつも十種類近くの煎餅がガラスケースに収まっており、たぶんそれなりの頻度で焼いているのだろう。食べてみたら、もしかしておいしいのかもしれない。ほかにも、活版印刷のお店、畳屋さん、骨接ぎ、店名がダジャレになった洋食屋など、うちの近所だけでもたくさんの「ちゃんと食えているんだろうか?」のお店がある。
そしてぼくがいつも感心するのが、原宿だ。
原宿に行くと、ちゃんとクレープ屋さんがある。きっと家賃も高いだろうに、そんなに流行っているとも聞かないのに、何軒ものクレープ屋さんがしっかり原宿で営業し、そこを原宿たらしめている。
大阪にたこ焼き屋さんが軒を連ねているのとは、すこし違う。この数年でパンケーキ屋さんやポップコーン屋さん、ケバブ屋さんなんかが増えたのともぜんぜん違う。
人びとの生活に根づいた名物というわけでもなく、「若者に大ブーム!」とかの食べものでもないのに、原宿にはずっと甘いクレープ屋さんがあり、なんならすこし食べてみたくなる。
「どうやって食ってるんだろう?」なひとたちが、ちゃんと食えていること。見え見えの儲けとは無縁のまま、その仕事や生活を、ずっと続けていてくれること。
それが「豊か」ということであり、ぼくにとっての原宿のクレープ屋さんは、あのチープさも含めて、いまだ「豊か」の象徴なのだ。
バニラのにおいがぷんぷん漂うチョコバナナのクレープ、おいしいよね。