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最高傑作から遠く離れて。

ポール・マッカートニーが新譜を出すらしい。

1970年の『McCartney』、1980年の『McCartney Ⅱ』に続く3部作(?)の締めくくり、2020年の12月に『McCartney Ⅲ』だ。前2作と同様、すべての楽器をポール自身が担当しているのだという。

プレスリリースとともに発表されたコメントのなかでポールは、「ロックダウンの期間中に、むかしやりかけた曲を思い出して、仕上げていった。仕事のためではなく、自分のために曲をつくっていった。それがこんなふうにアルバムになるなんて、思ってもみなかった」的なことを言っている。ああ、かっこいいなあ、と思う。肩に力が入っていない感じ、好きなことを好きにやっている感じ、「世界がぶっ飛ぶような、おれの最高傑作をつくってやるぜ」な野心が微塵も伺えない感じが、たまらなくかっこいい。


残念ながらぼくはまだ、本をつくるとき毎回「最高傑作」をめざそうとする傾向がある。自著であれば「おれの最高傑作」を、構成であれば「この人の最高傑作」をつくろうと、肩に力を入れてしまう。取材中、「あなたの最高傑作、代表作をつくりましょう」なんて鼻息荒く迫ることもしばしばだ。大事な志ではあるものの、行き過ぎるとだいたい空回りになる。読者が求めているのは、かならずしも「最高傑作」とはかぎらないのだ。


おそらくポール・マッカートニーにも、ビートルズ時代はその気持ちがあったはずだと思う。アルバムごとに、「おれが世界をひっくり返してやる」的な野心にあふれていたと思う。それだからこそ、このインタビューで語られるジョークが余計にかっこいいのだ。

「僕のやることは全部常に最後になると言われるんだ。50歳の時に『これが最後のツアーだ』と言われたりね。『ああ、そうなの? 僕はそう思わないけどな』って感じでね。そうやって噂が作られるんだ。でも、いいけどね。『アビイ・ロード』の時は僕は死んだと言われたしね。だから、その後のすべてはボーナスみたいなものなんだよ


ぼくもいつか、「出版するつもりはなかったけれど、なんとなく書いたものが、なんとなく本になった」みたいな境地にいけるのだろうか。そしてそれが、誰かによろこばれるようなことが起きるのだろうか。

ない気がするんだよなあ。