いつか語り合った、ばかばかしい企画。

もう向こうは憶えちゃいないかもしれない話だけど。

おそらく10年以上前、はじめて編集者の柿内芳文さんに会ったとき、こんな企画をやりたいね、という話で盛り上がった。その企画はシリーズもので、仮タイトルは「バカが行く」だった。

なんの専門知識も持ち合わせず、最低限の下調べすらやっていない底抜けにバカなライター(つまりはぼく)と編集者(つまりは彼)が、アカデミズムの巨人たちを訪ね歩き、バカ丸出しの質問をどんどんぶつけていく。ひとつも背伸びすることなく、バカにしか訊けないことを訊き、バカにしか問えない問いを投げかけ、思いっきり怒られ、バカだからこそ見える新世界に恐れおののく。そんなシリーズをつくれたら最高だと、大いに盛り上がった。

「帯のコピーはこうしましょう!」と彼は言った。


「キミィ、そんなことも知らんのかね!」


こいつは信頼できる編集者だと、こころから思ったのを憶えている。

いまでも十分できる企画だけれど、あのとき、あの年齢でやっておくべき企画だったし、ぼくらのコンビでやっていれば、きっとバカみたいにおもしろいシリーズになっただろうな、と思う。そして同時に、ほかの人たちが同じことをやっても、さほどおもしろくないだろうな、とも思う。

「キミィ、そんなことも知らんのかね!」と怒られる場所に飛び込んでいくこと。これは若さの特権でもあるし、成長の近道でもある。ぼくはよく、伸び悩みを自覚している編集者さんに「苦手分野を攻めるといいよ」とアドバイスするのだけど、それはいまのぼく自身にも言えることだなあ。

思いっきりどやされる場所、たまには足を運ばないとね。

出る釘は浮かれる。
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古賀史健