会見全文のありがたさ。

サッカー日本代表が、W杯ロシア大会の最終予選突破を決めた。

最終予選のなかでいちばん安心して観ることのできた試合だったし、おそらくハリルホジッチ監督の思い描くサッカーを、もっとも的確に体現できた試合だったのだと思う。長らく代表チームに定着していた4—2—3—1のシステムを大幅に変更し、前線に大迫、乾、浅野を並べ、そして中盤に井手口を先発起用する大胆采配。体格に勝るオーストラリアに対して、コンパクトなボール回しで優位に立とうとする従来的な日本代表のプランではなく、ひたすら「猛暑のなかを走り勝つ」に徹した采配は、おどろくほど的中した。このゲームプランで進めるかぎり、仮にコンディションが万全だったとしても、本田や香川の出場機会はこの先もかなり限定されるのではないか。そんなサッカーを、昨日の代表は体現していた。世代交代のための世代交代ではなく、勝てるサッカーを追求した結果の世代交代という、祝福すべき流れが垣間見えるすばらしい試合だった。

と、その直後からインターネットやSNS上で、不穏な動きが話題になった。

どうやらハリルホジッチが記者会見の質疑応答を拒否し、席を立ったらしい。辞任を匂わせるようなことを言って退席したらしい。それは「プライベートの問題」であるらしい。会長は続投を望み、協会関係者は「サウジ戦もハリルホジッチのつもりで行く」と語っているらしい。断片的な情報が錯綜した。

そして今朝のスポーツ新聞。およそこんなトーンの解説がなされている。

 試合後の会見でハリルホジッチ監督は「実は、プライベートの問題で試合の前に(欧州に)帰ろうと思った」と切り出し、質疑応答に応じず席を立った。日本協会広報は「家族の問題で、それ以上の説明は控えたいと監督は言っている」と説明。サウジアラビア戦は指揮するという。合宿中に監督から説明を受けたMF長谷部は「人生にはサッカーより大事なものがある。監督を尊重したい」と話すに留めた。
(サンケイスポーツ 2017年9月1日版
 バヒド・ハリルホジッチ監督(65)は試合後の会見を一方的に切り上げ、質問を受け付けなかった。「実はプライベートで大きな問題がある。この試合の前に帰ろうかなと思ったくらい。サッカーとは関係ないこと」と説明。事情を確認した日本協会広報にも「家族の問題」とだけ話し口を閉ざしたという。
 関係者によれば、親族が末期がんで闘病中だという。気持ちが高ぶったのか「もしかしたら、ここに残るかもしれないし、残らないかもしれないし」とも口走った。W杯を決めた日に、自らの今後が不透明であるとした。
 合宿中に直接打ち明けられていたというMF長谷部主将は「時に人生の中ではサッカーより大切なものもある。どんな決断も尊重したい」と気遣った。混乱の中、日本協会は「サウジアラビアには行くことまでは決まっている。行く以上、指揮も執ることになる」と説明。指揮官のショックは大きいようで、今後が気になるところだ。
(日刊スポーツ 2017年9月1日版

なんだかよくわからない。仮にプライベートでおおきな問題があったのだとしても、それと質疑応答を拒否することは別だろう。「質疑応答は今日の試合についての話に限る」と断れば、さほど問題ないはずだ。

ところが記者会見全文を読むと、いささか様相が違ってくる。

 皆さん、温かい歓迎をありがとう。昨日も言ったが、この試合は日本国民全員にとって重要な試合であり、国民全員の勝利だと思う。また(地震で被害のあった)熊本の皆さんのことも考えている。私は彼らに「W杯出場を決める」と約束していた。
 ジャーナリストの皆さん。もしかしたら全員に対してではないかもしれないが、私が早くここ(日本代表)から出ていかないか望んでいる方々もいらっしゃるかもしれない。もしかしたら残るかもしれないし、残らないかもしれない。いずれにせよ、私はこのチームをたたえたいと思う。今晩、彼らが見せたこの試合を、私は誇りに感じる。
 たくさんの困難な状況があった。しかしながら(日本は)英雄のような姿を見せた。相手もビッグチームだったし、質も高かった。(日本の)基準となる試合になった。今晩の選手の姿には誇りを感じている。若手を信頼して使うべきだと私は思っているが、それが正しいことを見せることができたと思う。それは日本サッカーにとってもいいことだと思う。

こう述べた上でハリルホジッチは、プライベートの問題について口を開いているのだ。

 実は私には、プライベートで大きな問題があった。皆さんはご存じないと思うが、その問題のことで私は、この試合の前に帰国しようと思った。サッカーとは関係ないが、それくらい大きな問題だった。しかし、応援してくれる皆さんへの責任もあるので、批判が始まったときにも、私はより力強くやってきた。それが私の性格だ。
(スポーツナビ ハリルホジッチ監督会見全文

きのうも書いたことだけれど、ハリルホジッチと日本メディアの関係は、あまりよろしくない。オシム〜岡田〜ザッケローニ時代の蜜月っぷりと比べると、なおのことその温度差が明白だ。「日本人好み」の発言をしてくれる監督ではないし、代表戦の視聴率もよくないし、おそらくスポーツ新聞やスポーツ誌の売上にもかつてほど寄与していない。ぼく自身、きのうの試合を観るまでハリルホジッチのめざすサッカーがよくわからなかった。

でもなあ。というか「だからこそ」なのかな。

会見全文を正確に伝えてくれるメディアがあることは、ほんとうにありがたいと思う。そして会見全文が伝わることを念頭に置かず、うっすらミスリードしていこうとするメディアは、せっせとおのれの墓の穴を掘っているだけなんだと思うけどなあ。

今後ハリルホジッチさんの進退がどうなっていくにせよ、ぼくは昨日のすばらしい勝利を忘れず、彼への感謝を忘れたくないなあ、と思ったのでした。なんだかいつもと違ってニュース性の強い話になったけど、まあ、いいか。

出る釘は浮かれる。
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古賀史健

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