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節穴だらけのスニーカー野郎。

「本日は足元の悪いなか、ご参加いただき……」

雨の日の、イベントごとの、主催者側による、定型句ともいえる挨拶である。しかしぼくは、このことばをいつも疑問に思っていた。だってそうだろう。足元が悪いって、さすがにいまどき泥んこ道を歩いてイベント会場に足を運ぶ人間はいない。国土交通省道路局によって舗装された、ぬかるみのないアスファルトの道を通っているはずだし、都内であれば移動の大半は電車だ。なんならタクシーだ。足元を気にする必要なんて、あるはずがないのだ。つまり「足元の悪いなか」という挨拶は、舗装のままならない戦後復興期くらいまでにできあがり、そのまま更新することをサボってきた定型句なのだ。

……といった疑念はしかし、ひとつの決定的見落としによって覆される。

ぼくは、パンプスはもちろんのこと、革のビジネス靴さえ履くことのない万年スニーカー野郎なのだ。そりゃあスニーカーだったらいくら濡れても気にならないだろうが、パンプスをはじめとする婦人靴、そして革製のビジネス靴を履く方々にとっては、地面がアスファルトだろうと石畳だろうと、雨降りは「足元が悪い」に決まっている。


スーツを着ないこと。ネクタイを締めないこと。革靴を履かないこと。これらによって得られる自由は多々あるのだと思うけれど、学生時代とおんなじ格好をしていることによって大人になりきれない、大人な視点を持ちえていないこと、たくさんあるんだろうなあ。

きょうなんかぼく、犬に噛まれて穴の空きまくった真性ダメージ加工のスウェットを着て出社してますからね。