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乗るなら書くな、書くなら乗るな

原稿を書いているとき、「ノリに乗る」という感覚に襲われることがあります。なんちゃらホルモンみたいなのドバドバーッとが分泌され、時間が経つのも忘れて、ぐいぐい筆が進んでいく時間。

人それぞれではあるのでしょうが、ぼくはこの状態におちいった自分をとても危険だと思っていて、できるだけブレーキをかけながら書くことが多いです。というのも、ノリに支配されてるときの自分って、身体が、心が、ひたすら先に行きたがってるんですよね。原稿用紙でいうと、いま鉛筆は3行目の上にあるのに、頭のなかでは10行目のことを考えてて、早くそこに行きたがっているような状態です。

ここで「もっと先へ!」「早く向こうへ!」とアクセルふかして筆を進めていくと、当然3行目のことばはおろそかになります。使い慣れた、あるいはどこかで目にした、なんでもないことばで行を埋め、さっさと次にジャンプする。前へ進む快感だけに酔いしれて、気がついたときには「なんか言ってるんだろうけど、なんにも言ってない原稿」になってしまう。早い話、足元がおろそかになる。

しかも面倒なことに、たとえいい加減なことばであっても、一度「これだ」と固めてしまった文章は、あとになって読み返しても、それ以外のことばがなかなか浮かばないんですよね。書きながら、ああでもない、こうでもないとやってるときには柔軟に考えられるのに。

なので、数行先のイメージがぼんぼん浮かぶ絶好調のときほど、先へ行きたがる自分にブレーキをかけて、目の前の3行目に集中するわけです。ものすごくじりじりする、下手をすると集中が切れてしまいそうな作業ですが、いまのぼくにはそれでしかクオリティを保てないなあ、と思います。

いや、いま取り組んでる原稿について、「こんなにアイデアも書きたいこともあるのに、どうして遅いんだろう?」と思って、その理由を自分なりに分析してみたのでした。

ぼくは「ノリに乗る」自分が怖いのだし、根っこのところで書き手としての自分を信用してないんだろうな。

なんだか暗い話みたいな結論になったけど、たぶん明るい話なんですよ。