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びっくりマークとはてなマーク。

「おれは1日に何百通ものメールをやりとりしている」

そう豪語する人に、取材したことがある。1990年代のおわりごろ、携帯電話の3Gサービス(当時は「IMT-2000」と呼ばれていた)開始が目前に迫り、そういうのに敏感な人たちが大騒ぎしていたタイミングでの取材だ。

さすがに何百通とまではいかなくとも、当時のぼくだって毎日何十通というメールを受信していた。大半はダイレクトメールだったけれど、多い日には何十通のメールを書き、送信ボタンを押していた。なんだかもう、それだけで仕事がおわってしまいそうだった。

しかしその人(メディア業界ではけっこうな有名人)は、何百通のメールを受信するだけでなく、返信までしているという。指示を出し、GOサインを出し、疑問点を尋ね、ほめたり叱ったり、ちゃんとコミュニケーションをとっているのだという。

「いったい、どうすればそんなことができるんですか」

ぼくの質問に、彼は即答した。

「文章を書かなきゃいいんです。返信は1文字だけ」

「はっ?」

「たとえばプロジェクトの進捗報告メールがきたとき、その内容がOKだったら『』と返信する。友だちから結婚報告のメールがきたとき、おめでとうの代わりに『』と返信する。スタッフからよくわからないメールがきたときは『』だけを返す。もっと考えろ、別の案を出せ、というときもただ『』と返す。それでこっちの意図はだいたい伝わるし、何百通のやりとりだって苦じゃなくなりますよ」


当時はめちゃくちゃな話だと思っていたのだけれど、考えてみたらこれ、いまのぼくらがLINEスタンプで会話してるのと、ほとんど同じだ。SNS投稿に「いいね」をつけたりリツイートしたりするのと、ほとんど同じだ。あるいはネットスラング的な「w」とか「草」とかだって、その派生形といえる。


いちおうは文章を書くことを生業としているぼくだって、LINEのスタンプはたいへん重宝している。スタンプのおかげで続いていくやりとり、スタンプのおかげで中座できるやりとりは、たくさんある。そして「!」や「?」の記号を使うことによってようやく表現できるニュアンスも、たくさんある。「!」はともかく、「?」の記号については原稿のなかでもしばしば使ってしまう。その便利さに頼ってしまう。


いやね、そうとうな大発明だと思うんですよ。「!」と「?」って。

とくに会話体による文章が一般化し、情報伝達よりも感情伝達のほうが重要視されるようになった電子メール以降の文字コミュニケーションにおいて、「!」と「?」のありがたみはかつてないほど高まっているんじゃないかと思います。

意外とむずかしいものですよー、メールのなかで「!」と「?」を使わないのは。