締切に弱い男。

きょうは14時からひとつ、取材が入っている。

取材先までの移動時間は、およそ30分強。ということは13時20分くらいにはここ(会社)を出たい。いまが12時20分すぎなので、おお、あと1時間か。ごはんはどうしようかな。さくっと食べて、しゅっと出られるようなお店はないかな。きのうのお昼はうどんだったから、きょうはお米のごはんがいいな。

みたいなことを考えはじめるとぼくは、意味なく無性にとめどなく、気が焦ってしまう。メールを書くのもわたわたするし、これ(note)を書くのも文字がすべるかんじというか、心ここにあらず感が満載の文面になる。20年もこの仕事に従事しておきながら、いまだ締切のプレッシャーに弱いのだ。


たとえば、冷蔵庫に豚の小間切れ肉が入っていたとしよう。冷凍室ではなく、冷蔵のほうに、入っていたとしよう。

それを冷蔵庫に入れた瞬間から、締切(消費期限)が気になって気になって、仕事が手につかなくなる。とくに自宅で仕事をしていた独身時代はそれがひどかった。ああ、早く食べなきゃ腐っちゃう。血の混じったへんな水が出てきちゃう。ほら、もう端っこが黒ずんでない? やばくない? さっきごはん食べたばっかりだけど、やっぱ早めに調理しといたほうがよくない?

みたいな感じの腐敗プレッシャーが冷蔵庫近辺からむんむんに押し寄せ、ぼくを仕事から遠ざける。なので当時はせっせとカレーづくりにいそしんでいた。火を通せば、料理のかたちにしてしまえば、腐敗プレッシャーも収まるのだ。


と、ほんとにどうでもいいことを書いているうちに15分が経過し、ぼくが昼食に使える時間はまた目減りしてしまった。書かなきゃいけないメールは少なく見積もってもあと5通はあり、たぶんこれを書き終えたあと、ぼくは書くか食うかの大選択を迫られる。

そしてきっと、書きもせず、食いもせず、缶コーヒーなどで胃をごまかしながら取材先へと向かうのだ。

郷に入ってはひろみに従え。
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古賀史健

ライター。バトンズ代表。著書「嫌われる勇気」「古賀史健がまとめた糸井重里のこと。」「20歳の自分に受けさせたい文章講義」など。週日更新しています。http://www.batons.jp
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