見出し画像

ポートランドというワンダーランドと私の理想の暮らし方

今から3年ほど前、私が東京から今住んでいる地方に移住して2年ほど経った頃に、ポートランドをひとりで旅をした。
元々、ひとり旅自体は好きでよく海外を旅していた私が、その時に真っ先に行きたいと思ったのが、人生で2度目となるポートランドだった。

ポートランドはアメリカ西海岸、オレゴン州最大の都市だ。
中学生の時にホームステイをして、自分の価値観を覆された場所、つまり自分自身のルーツともいえる場所だ。「なんて心地いよい場所なのだろう。ずっとここにいたい」と、子供心に感じていたことを覚えていた。

ありがたいことに、幼少期にはハワイ、アメリカ本土、香港など外国へ家族旅行をしたことは、その当時までにもあったのでその時がはじめての外国では決してなかった。

それでも13歳だった私にとって、家族と離れて一人で行った最初の外国であり、英語どころか日本語さえまともに話せないような人見知りの日本人だった私を、寛容な心で包み込んでくれた、ホストファミリーとポートランドという土地に思い入れがないわけがなかった。

再訪するまでに20年近く経っていた上に、当時の写真をどこかへなくしてしまったにもかかわらず、あの時に訪れた美しいオレゴンコーストや、富士山を思い出されたマウントフッド、フォレストパークでのピクニックや、マーケットで買ったリンゴをハンカチでふいて丸かじりしたこと、21時になっても明るくてカラっとした夏の夜に驚いたこと・・。

不思議とすべての記憶が鮮明に残っている。

3年前に再訪することになった直前の私は、仕事で大失態をしてしまった上に、長年付き合った恋人と別れたばかりだった。

ここではないどこかに行きたい、という衝動に駆られて、会社に無理を言ってまとまった休みをとり、ポートランドへ直行した。

ポートランドの魅力はすでに多くの書籍等でも語られているが、やはり都市デザイン、とりわけコンパクトシティとしての秀逸さではないだろうか。

徒歩でも街が歩きやすいような都市設計になっており、交通公共機関がとても充実している、街のそこかしこでシェア自転車を利用できる。そのため環境都市とも言われている。

都市としての機能を保ちながらも、オレゴンコーストやマウントフットなどの自然へのアクセスがとても良いのも、魅力だ。
車で30分も走らせれば大自然。ダウンタウンから歩いていける距離にも、フォレストパークのすばらしいトレッキングコースがある。

ダウンタウンにいる多くの住民は日常的にスポーツウェアを身に着けている。街中でランニングをし、そのまま友人たちとカフェでコーヒーを飲む。雨が多い土地ということや気温の変化が大きいこともあり多くの人がバッグに薄いマウンテンパーカーを忍ばせている。

本当に不思議な街だなあ、と感じるのは、それが都市とも言い切れないし、かといって地方、とも言い切れないところだ。(多分地方都市という感じなのだろうけど)
地元的なつながり、ではなく、かといって都会特有の不干渉でもなく、互いに程よい距離感を保ちながらスマートに住民同士が共存しているコミュニティの在り方を肌で感じている。

そんな風にして30代になった私は、また強烈にポートランドという街に惹かれていた。

その時の旅では、何をするわけでもなく、ただ街を歩き回りときおり本屋やカフェで休憩し、ポートランド産の美味しいワインとポートランド産の美味しい食材をつかった料理を楽しみ、時々フォレストパークまで足を運び軽いトレッキングをしたりした。

もちろん何カ月もの長期滞在ではないし、住民になったわけではない。
ただの一旅行者としての目線に過ぎないので、別の角度から見たら見えていない面は多いとは思う。
さらに言えば、正直観光する系の旅はここではできない。それならばNYだったりLAなどへ行った方がもっと刺激的な旅ができるから。

それでも私は「こういう暮らしが好きなのだなあ」と改めて感じ、この土地をまた好きになり、とても満足して帰国した。

地に足のついた暮らしと、大切な価値観とは

ポートランドの最も素晴らしい感じる点は、生産者と消費者の距離が近いこと、そして生産から消費までの流れがきちんと整っていることだ。

街中に、メイドインポートランドの製品がそこら中に売っている。農作物や食品だけではない。書店、服飾品、雑貨店、もちろんレストランもだ。驚くほどにユニークで個性的なオーナーのお店が多くそれぞれに信条をもって各々にビジネスを営んでいる。互いに近くのお店、近くのオーナーからモノを仕入れたり、売ったりする文化が、ごく自然にある。

消費者の側も、効率や利益だけを追求する都会的な消費の仕方ではなく、きちんとその土地の材料を使って、その土地の人が作り、その土地の人が届ける、というシンプルな流れの中に存在し、それが街の生活にしっかり根付いている。

なんでもDIYをするし、もちろん当時からプラスチックバッグやプラスチックのストローなどはほとんど見ていない。環境への意識が日本に比べて格段に高い。


旅行当時の自分の日記にはこんな風に書いてある。

街の人がとにかく優しくて誰一人としてあくせくしていない。ローカルファーストという考え方があらゆるところで徹底していて、地元のアーティストの製品がそこかしこにあったりローカルで作られた食べ物に傾倒している。物質的な贅沢ではなく、精神的な余裕だとか自由な暮らし、型にはまらない生活を受け入れる、みないなものに重点を置いている感じだ。、ワンダーランドだった

だが不思議なことにこう続けている。

素晴らしい旅だったが、今までの一人旅で感じたことがなかった感情がある。それは早く日本に、家に帰りたいということだ。街のあり方や住んでいる住人の気質はちがうかもしれないが、おおむね私の暮らしの良い面には似ている。自然と経済が共存し、毎週地元のファーマーズマーケットで野菜や花を買い、週末にはトレッキングに行く。この暮らしをいとおしいと感じる。もっと自分の住む町に敬意を持ちたい

自分自身が求める暮らしがどういったことなのか、毎回旅や外国で気が付かさせる。時折自分の暮らしを外から俯瞰すると、全く見えなかった別の面が見えるからだと思う。

わたしは、数年前に18歳から過ごした東京での11年間に終わりをつげ、地元である地方に移住する決意をした。

おそらくこのような暮らしを私自身が求めていたからでもあった。

刺激的で多様性と匿名性を受容される東京は、私にとって居心地が良い場所だと信じてやまなかったけれど、どこか漠然と「ずっとここに住む」というイメージを持てていなかったのも事実だった。

自然が身近にあり家族や友人とのコミュニティがあり、かつ自分のやりたいことを思い切りやれる場所、文化的で人間的な営みを肌で感じられる暮らし。

そんなポートランドで感じたような日々が私にとっては人間らしい地に足のついた暮らしで、自分の価値観に重要な要素だった。

現在私の住んでいる場所は、地方都市だ。でもポートランドのような都市としての機能はあまりないし、決して文化的な成熟度は高くはないかもしれない。でも最も気に入っていることは全国で日照時間もっとも多い地域と言われるほどに太陽に愛されている場所ということだ。(ポートランドとは真逆だ・・)

そのおかげか、ラテン的な人が多い気がする。警戒心が低くて寛容的なマインドの人間たち、この土地の性質は私自身も何度か救われたことがある。

海と山がとても近いので山登りやキャンプ、サーフィンなどのアウトドアを楽しむ人がそこら中にいる。私は断然山派で、時々、夫と二人でかるいトレッキングに行ったり簡単なピクニックを割と日常的にしている。それに、毎週末ファーマーズマーケットで新鮮な野菜や花を買うのが日課だ。

今の暮らしに100%満足しているというわけではないが、健康的で穏やかなこの生活は、今の自分にはとてもフィットしていると常々感じている。

それでもまだ、私自身はこの先も自分にとってのワンダーランドを探して自分にとっての心地良い暮らしを追求していくような気がする。その場所はここかもしれないし、ここじゃないかもしれない。

私に様々な気づきを与えてくれた大切な場所ポートランドに、早くまた訪れられる日が来るといい。

この記事が参加している募集

この街がすき

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?