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医療従事者のタメ口

私の中での大きなテーマ。
それは「タメ口」だ。

私はタメ口で話すのが苦手だ。
正確には敬語からタメ口へ移行するのが苦手だ。
はじめましての時点では、一般的には敬語を使うことが多いから、その後も自ずと敬語だ。

タメ口で話せるのは昔からの友達か圧倒的に私よりも若い研修医ぐらいだ。

他科の先生や看護師さんとなると、いくら新人さんだったとしても自動的に敬語になってしまう。

だからと言って、タメ口で話しかけられるのが嫌なわけではない。

職場でよく顔を合わせる看護師さんの中には、本当に自然にタメ口で話してくれる人もいてやっぱり親近感が湧く。私も少し頑張ってタメ口寄りの敬語を使ってみたりもする。

でもいずれにせよ、これらは「親しくなったら」の話。

さて。使う人を選ぶなあ、と思うのは患者さんへのタメ口。

医療現場では特に使われる場面が多いと思う。
患者さんがおじいさん・おばあさんの時に、その頻度はグッと高くなる。多少耳が遠くなっていたり、認知症が始まっていたりするとタメ口が使用されることが多い。
高齢であっても、背筋がピンとしてシャンとした雰囲気の患者さんには医療従事者側もタメ口では話さない。
多分ここの使い分けは無意識だ。

対患者さんであっても、タメ口は使い方と使う人間によってはすごい効能を発揮すると思っている。

長年お付き合いのある患者さんにいつまでも敬語で話すよりも、タメ口がいい塩梅で混ざった方が温かみのある空気感が作れるときがある。方言混じりの会話はなんて、とてもいいものだと思う。

私がたまに行くクリニックには、本当に聞き惚れるぐらい心地よいタメ口で話すベテラン看護師さんがいる。
堅物で気難しい患者さんでもイチコロで、この人と話すと眉間のしわがなくなり多少柔和な顔つきになる。
もはやこれは才能なのかもしれない。

でも、まだ仕事人としてベテランの域に達していない人、仕事に関して未熟な部分がある人は使うべきではないと思うのだ。タメ口が不釣り合いなブランド品のように浮いてしまう。タメ口で話すことで距離が縮まると勘違いするのか、はたまた先輩の真似なのかはわからないが、聞いていて違和感を感じるシーンもあったりする。

やっぱりタメ口で話しても違和感ないぐらいに仕事ができますよという風格がきちんと滲み出ていないと不快な思いになる人もいると思う。


以前、父が大学病院で手術を受けた時に手術当日の朝に回診に来てくれた医師がいた。研修医を終えて、外科に入局してホヤホヤぐらいの医師だったと思う。
部屋に入ってくるなり父の肩をポンと叩き、「調子はどう?」と聞いたのだ。そして、「頑張ろうね。」と言って出ていった。
その医師が去ってから父に「担当の先生?」と聞いたが「知らんなぁ。初めて会った。」との答え。
ベテランの医師であればなんの違和感もないシチュエーションのはずだが、ものすごい違和感を感じた。



そしてこれは、祖母が入院していてお見舞いに行った時の話。
まだ新人さんと思しき看護師さんが点滴を失敗した際に「ごめんね」と言ったあげくに、「今日、お熱測った?」と祖母に聞いた。一見弱々しく見えてはいたが、まだ頭のシャンとしていた祖母は、身内からするとまだタメ口で話しかけられるには違和感があった。
ベテランの看護師さんなら違和感なく受け入れられたかもしれないが、聞いている方がなんだか恥ずかしくなるぐらい板に付いていないタメ口だったし、私の姉は怒っていた。


年月が経たないと気付かないことも山程あるから、この外科医にも看護師さんにも10年後に自分を振り返って頬を赤らめてもらえたらいいなとは思う。


見様見真似や威厳を示そうと未熟な人が使うタメ口は見ていて恥ずかしくなってしまう。きっと本人も違和感があると思うのだ。
仕事は真似をして覚えるものだけど、タメ口だけは時期とタイミングを慎重に見極めないと失礼になると身を持って知った。

でも、ちゃんと年齢や経験を重ねて実力を身に着けてから使うとむしろコミュニケーションの潤滑油になると思うし、お互いの違和感もないはずなのだ。そんなタメ口は心地よいものだというのも知っている。


本当に高級ブランドのカバンと同じだな、と思う。
私もいつか分相応だなと思えた時に、持つことができたらいいなと思う。

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