私の父は早起きが得意で、家族のだれも起きていないような時間に起きては絵を描いたり、本を読んだりしていた。

それに気づいたのは小学生くらいのころで、まだ外がそれほど明るくない時間にデスクライトだけつけて机に向かう父の背中は今でも忘れられない。

「すっごく早起きさんなのね」
朝食の席で父に尋ねたことがある。
「朝はゴールデンタイムだよ。寝ているなんてもったいないじゃないか」
父が描く絵は飛行機やヨットが多かったが、こっそりスケッチブックをのぞくと、青色だけもページもたくさんあった。
しんとした、音のない青だった。

自分が見た手付かずの朝を切り取ろうとしたのかもしれない。

そんな父を見て育った私だが、早起きの必要性がないとどうも早く起きることができない。
とはいえ、朝の時間を楽しむ心は引き継いだつもりだ。

今回は、毎日必ず訪れる朝を楽しむお話。

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01 一回だけの朝を味わう

窓を開けて、朝の音に耳をすませるようにしている。
小鳥の歌や風が木の葉を揺らす音、遠くで走っている車の音。植物に水を注ぐ音。
朝の空気を肌で感じながら耳でも朝を楽しむと、ゆるやかに身体が目覚めていく。

次に太陽の光に目を向けてみる。
やわらかい朝の日差しはふんだんに街へ降り注ぎ、たくさんの反射による色とりどりの光と影を作っている。
植物の影は切り絵のようにくっきりと、照らされている葉っぱは黄色がかった緑色に。
柱が作る影もジョウロが作る影も、日によって影の長さが変わっている。
だれかが日替わりで絵を描いているようで、朝のベランダはなんだかにぎやかだ。

そして、一杯の水を飲む。
白湯を飲むこともある。近ごろは水を飲むことが多い。
ごくごくと喉を通っていく水を味わいながら思うのは、水という色も匂いもない液体を今日はどう感じるかということだ。
昨日と味の違いはあるか、身体はどう反応しているか、心はどう感じているか。
毎朝同じ水を飲んでいるはずなのに不思議と味がする日もあれば、やたらと冷たさを感じる日があったりしておもしろい。

日々は続いていて、同じことの繰り返しのように感じることもあるが、朝の要素をひとつでもいいので確認すると、これまでと似ているようでなにもかも違う朝を知ることになる。

そうすると、「さぁ、一回だけの朝を大切にしよう」と思える。
休日の朝にたっぷりねむるのも素敵だけれど、その時だけの朝を五感で楽しむのも悪くない。

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02 味と香りを楽しむ

朝の楽しみといったら、朝食である。
私の場合、朝食を抜くとスイッチが入らないので、必ず朝食は摂る。
時間がないときは紅茶とビスケットだけで済ませることもあるが、なるべく気持ちがシャキッと元気になる朝食を用意するようにしている。

目玉焼きとキャベツであたたかいサラダをつくったり、焼いたパンにハムとチーズを挟んだり、シンプルなバタートーストにスープをつけたり。
ヨーグルトやフルーツがあるとなお良い。

休日は、パンケーキやフレンチトーストを登場させて朝を盛り上げる。
朝食は調理がシンプルなので、一つ一つの動作を丁寧にできるところも良い。

そして、どんな朝食にも欠かせないのがあたたかい飲みものである。
今の季節はアイスティーを飲むこともあるが、基本的にあたたかい飲みものを準備する。

カフェオレ、コーヒー、紅茶、ハーブティー、ルイボスティー、ココアなど、その日の気分によって飲みものを選ぶ。

朝食の準備にかける時間は15分〜20分くらい。
写真映えしなくても、自分が食べたいものが用意できればＯＫ。
私は、朝からあたたかいものを食べられることに幸せを感じるので、平日はチーズトーストやホットサンドが多い。

やわらかい朝の光の中、あたたかい飲みものと焼きたてのパンの香りを楽しむ時間は、気忙しい毎日へのエネルギーチャージになる。

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朝、少しでも幸せな時間を作ること。肩の力が抜けるような穏やかな時間を作ること。
それは、ほんの数分でもいいし、早起きが得意なら30分くらい朝を楽しむのもいいと思う。

たった一度しかない今日という一日のスタートを、さまざまな視点で味わえば、きっとその日はいい一日。

決して平坦ではない毎日であっても、次の朝が楽しみになれば、それだけでちょっと人生を好きになる。

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