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経営学者@京都。経営学に関係ないことも書きます。 記事は全て筆者個人の論考であり、所属…

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経営学者@京都。経営学に関係ないことも書きます。 記事は全て筆者個人の論考であり、所属組織や特定団体とは無関係です。 初心者なので使い方がまだよくわかっていません。

最近の記事

読書感想文「行為の経営学の新展開」④

第3章以降は、行為システム論の中核的な概念や考え方について、より精緻に分析されていく。ゆえに、1・2章で抱いた疑問に各個答えてもらったような読後感である。 行為システム論の誤用と時間 第3章のカギ概念は「時間」。行為システム論を展開するに不可欠な要素である。要は、経時的な変化を重要視し、それをいかに捉えるか。典型的・伝統的な変数システム研究では、静時的な分析が中心で、時間の考慮があまり行われていなかったという。 もう一つ、行為システム論に対する「誤解」として、行為システム

    • 読書感想文「行為の経営学の新展開」③

      賞を総なめにした経営学研究とは 第2章は、兒玉公一郎(現日本大)による「デジタル・ミニラボ」の事例研究である。 同事例にかかる研究(兒玉, 2013; 2020)は、組織学会高宮賞・日本経営学会賞・企業家研究フォーラム賞をはじめ経営学系の賞を総なめにしている。 むろん、良い研究が必ず受賞するわけではないし、賞を獲るから手放しに良いわけでもなかろう。ただ、近年でもこれだけ各学会で高い評価を受けた研究はそうそう見当たらず、その点でも注目に値する。 兒玉の一連の研究の、何がウ

      • 読書感想文「行為の経営学の新展開」②

        ※①②は、第1章「実践的方法論としての<行為システム>」までの内容である。①はこちら 競争戦略論と行為システム論 行為システムを提唱した沼上は、いくつか関連した経験的研究も発表している。主たる領域が競争戦略論だ。たとえば行為の経営学以前の業績ではあるものの、「対話としての競争」(1992年)は、そのタイトルからして行為システムの世界観がつよく反映された研究であるといえよう。 たしかに、競争戦略論はきわめて行為システムとの相性が良い。M&Aの例でも述べたように、競争戦略

        • 読書感想文「行為の経営学の新展開」①

          以下は、「行為の経営学の新展開」(加藤俊彦・佐々木将人著、2023年、白桃書房)の私的なレジュメである。つまり筆者のオリジナルの論考ではなく、多分に同書を反映した内容である。但し、引用については明記し、部分的にオリジナルの解釈や例を足してまとめている。 はじめに:行為の経営学の新展開 本書は、沼上幹氏(一橋大→早大)の教え子らが、氏の退職を記念して編纂した本である。要は退職記念本だ。またテーマとして、2000年に沼上が著した「行為の経営学」を進展させるという目的を掲げてい

        読書感想文「行為の経営学の新展開」④

        マガジン

        • 経営学つれづれ
          6本

        記事

          結果を変えるゆらぎ―若者に向けて

          そういう季節ですね 先日卒業式がありました。私にとって1期生となるゼミ生を送り出しました。 ちょっと扱いに注意を要する若者もいれば、いや普通に優秀じゃんと思える若者もいる。これ自体は当たり前のことだと思うんですが、では何が重要かというと、この二つは対極にあるのではなくて、すごく小さな分岐で大きく結果が分かれた、表裏一体のものである気がしてならないのです。 適応し生き抜いた学生たち 今年送り出した弊ゼミ卒業生は、学生の最後2年間をコロナ禍で過ごさざるを得なかった人たちでした

          結果を変えるゆらぎ―若者に向けて

          文学と経営学―虚構とクラスルーム

          【題材】「死の影」と向き合う——近代日本の経営と文学 (東京大学ヒューマニティーズセンター主催オープンセミナー)  もう2週間ほど前ですが、上記のセミナーに参加しました。経営学と文学の接点を探るという、学際的かつ意欲的なセミナーでした。私のnoteでも度々感想を述べている、清水先生著・「感染症と経営」の紹介および論点提示がされつつ、後半で対談するという形式のセミナー。  経営学において近年、小説や漫画といった作品に注目する動きが見え始めています。  私は勝手に「経営学と文

          文学と経営学―虚構とクラスルーム

          多様性を束ねる一元性

           今日(7月24日)、色々ぼーっとしてたら、「オリンピックの柔道がやってる」ことに17時くらいに気付きました。  あまりにも色々あった今回のTokyo2020、ケチがついちゃった気がしてなんとなく興味も失せて、野球は観ようかな(でも日程知らんな)と思ってたくらいで、かつて自分がやっていた柔道の日程もチェックしていませんでした。  僕が柔道を始めて、初めてのオリンピックだった2004年アテネでは、野村忠宏選手や内柴正人選手が大活躍して、すごく熱狂したことを覚えています。柔道にと

          多様性を束ねる一元性

          読書感想文(3.1)清水先生からのご返信に対する返信

          題材:清水剛先生著「感染症と経営 戦前日本企業は『死の影』といかに向き合ったか」中央経済社  前回のnoteをFacebookで公開したところ、著者の清水先生から丁寧なフィードバックをいただきました(いつもコメントはいただいていました)。とんでもない僥倖で恐縮です。読書感想文を書いたら著者の方から返信をいただける、ってなかなかないと思いませんか?読者冥利(?)に尽きます。嬉しい限りです。  以下、寄せていただいたコメント(引用で表示、一部表記など修正)と、私の追加感想文です

          読書感想文(3.1)清水先生からのご返信に対する返信

          読書感想文(3)賢い消費者は、いかに生まれ育ったか?

          題材:清水剛先生著「感染症と経営 戦前日本企業は『死の影』といかに向き合ったか」中央経済社  前回までは、「死が身近にある社会」における、主に企業(起業家・経営者・雇用主)に目を向けた。次は、消費者の視点から、死が身近にあるときの振る舞いについて考えていく。  (なぜか突然開き直って、だ・である調で執筆を始める。前回までと不一致である。そして、例によって、要約と感想文が入り混じっている。要約箇所はできるだけ引用形式で示す) 死を身近に感じる社会の消費者  死が身近にある社

          読書感想文(3)賢い消費者は、いかに生まれ育ったか?

          読書感想文(2)何のために働き、何のために働かせるか

           題材:清水剛先生著「感染症と経営 戦前日本企業は『死の影』といかに向き合ったか」中央経済社  前回の読書感想文の続きです。私的なメモやまとめを含み、ですますとだである調が混在する、なんとも拙い感想文となっています。  さて、前回は、序章への感想として、本書の建付けについて確認しました(注:下記は引用ではなく私のまとめです)。  「死を身近に感じる社会」、すなわち自分を含む身近な人が感染症で亡くなる可能性が高まり、健康上の不確実性が高まる社会では、死への恐怖や畏敬といった

          読書感想文(2)何のために働き、何のために働かせるか

          読書感想文(1)死の接近がもたらす影響

          題材:清水剛先生著「感染症と経営 戦前日本企業は『死の影』といかに向き合ったか」中央経済社  コロナ禍という情勢もあってか、最近一部で話題になっている本書。近日中に読書会的なものがあるので、改めて本書を読んでおり、改めて非常に感銘を受けています。書評を述べるほどの立場ではないので、思ったことをつらつらと、読書感想文として述べていきたいと思います。  さて、本書の目的は、「コロナ後の企業経営を考える」ために、「戦前の日本社会における企業経営のあり方を検討する」ことにあります

          読書感想文(1)死の接近がもたらす影響

          産学連携プロジェクトを始動します

           日本ベンチャー学会から支援を受け、産学連携の研究プロジェクトを始動しました。  私が研究代表者となり、アカデミックのスタッフとしては、九州大の中本先生、追手門学院大の神吉先生、福島大の野口先生にご参加いただいています。 http://www.venture-ac.ne.jp/research/project/k_list.html  このプロジェクトは、かつて組織学会で行われたという「実務家と研究者の連携プロジェクト」、略して実プロをロールモデルとして計画しています。実務

          産学連携プロジェクトを始動します

          経営学は何のために? (4) 役に立つとは、いつどこで

           前回から少し間が空いてしまいました。社会はコロナでなんだか落ち着かない雰囲気ですね。  大学教員にとって、2月は授業がほぼ終わり、採点業務なども落ち着いて、まとまった時間が取りやすくなってくる時期です。修論・博論審査などで忙しい方、時期とか関係なく年中忙しい方もむろんいらっしゃいますが、時間が取れる方も多いはず。但しもちろん暇なわけでもなく、まとまった時間が取れるということは研究に充てるのに適しているので、調査や論文執筆をガッツリ進めていく時期にもなります。私も現状3本くら

          経営学は何のために? (4) 役に立つとは、いつどこで

          経営学は何のために? (3) 失敗と修正

           こんにちは。前回の続き、第3回になります。  Facebookでシェアしてるので、てっきり知り合いしか読んでないと思いきや、リアルでは私が存じない方にも読んでいただいているようです(スパムっぽいアカウントもあります)。読者の皆様にとって何らか意味のあるモノになっていたら幸いです。  前回は、理論が「失敗」した例を挙げました。やっぱり理論は役に立たないのでしょうか?いやそんなことはないです、その理由は①理論はそもそも失敗するからです、という〆でした。どういう意味でしょうか。

          経営学は何のために? (3) 失敗と修正

          経営学は何のために?(2) 理論の社会実装、そして失敗

           先稿にリアクションいただいた方、ありがとうございました。「おもしろかった」「続きが気になる」から、「頭に入ってこない」まで、たくさんのコメント・リアクションをいただき、勉強にもなり、励みにもなりました。全ての読者に応える発信というのは不可能で、どういう読者を意識するのか、は発信者にとってめちゃくちゃ大事なことです。ただ、あんまりスタンスは決めておらず、とりあえずは、前回のように「友人に向けて」書いてるような気分です。  ちなみに、友人氏はこういう↓リアクションをくれました。

          経営学は何のために?(2) 理論の社会実装、そして失敗

          経営学は何のために? (1) 理論と実際

           実質初投稿になります。noteの投稿はあんまり経営学に限定するつもりはなかったのですが、経営学関連にご期待する声もあり、プレッシャーを感じつつ経営学に関する投稿から始めることにしました。今回はどちらかというと経営学ではなく経済学の話なのですが…。 朋あり遠方よりLINE来る  先日、中学以来の友人から、突然LINEを貰いました。 「MM理論って、MBAでがっつりやる?触るくらい?ファイナンスは、経営だとあんまやらないのかな?」  MM理論とは?  MM理論はファイナン

          経営学は何のために? (1) 理論と実際