俺の銀行のキャッシュカードが盗まれた。慌てて銀行に連絡し口座を止めてもらうも、現金は全ておろされ口座は空っぽに・・・。全てを失い途方に暮れていた時・・・起床を告げる朝の音楽が流れだした。

「夢か・・・」

被害者の気持ちがよく理解できた。全てを失い、途方に暮れ、何も考える余裕もなく、どんよりとした雲が心を覆い、永遠に崖の淵へ立たされているような絶望感。きっと被害者の方もこんな気持ちになったのだろう。

なんて事をしてしまったんだ・・・。

俺は最低だ・・・。本当に最低最悪だ・・・。

人でなしとは俺自身を指す言葉。

朝食の味がよくわからないくらい、ずっと罪悪感に駆られていた。

「２７１６番、手紙が来ているぞ」

刑務官からこの言葉を聞いたのはもうどれくらい前だろうか。

最後に聞いたのは僅か一か月半くらい前。

妻からの手紙が来ない。

たった一か月半手紙が来ないだけで、半年くらい手紙が来ないような感覚に陥るのはなぜだろうか・・・。

最低でも一か月に一度は来ていたのに・・・。

何かあったのか。

俺のこと嫌いになったのか。

何を考えているんだろう・・・。

不安な気持ちが心の奥底から溢れ出る。

忙しいのはわかっている。でも、短い文章でもいい。

一言

「忙しいからまたゆっくり書くね！大好きだよ！」

そんな手紙でもいい。

連絡が途絶えるのは・・・堪える。

けれど・・・自分ではどうにもならないことを考えても仕方がない。妻は仕事をしながら家事もこなし、子育てまでこなしている。手紙を書く余裕なんてない。それは理解している。手紙を送ってくれなんて、俺からはやはり言えない。伝えたいけど・・・言えない。

妻を信じよう。そして今できることに集中しよう。

大丈夫。妻は待っていてくれている。その気持ちに応えるために更生して社会復帰をするんだ。

気持ちを強く持て。大丈夫だ。大丈夫。

高卒認定試験の学習。倫理は大学入試の過去問をひたすら解いている。2010年の過去問「全国平均点６８点」今回の点数「６６点」だんだんと平均点には近づくもまだまだ高得点へは辿り着けない。もっともっとやらないと。

被害者の方への罪悪感。

妻への寂しい思い。

未来への期待。

様々な思いを抱え今日も生きている。

順調に見えても・・・心はぐちゃぐちゃなのかもしれない。

いや、順調だ。そう言い聞かす。自分に。

全ては順調に進んでいる。人生の成功に向けて。