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2016年12月2日金曜日 島根あさひ社会復帰促進センターへ

早朝4時半、房の食器口がガチャッと開き職員がこう言った。

「起きろ、移送の時間だ。すぐ準備しなさい」

嘘だろ、早すぎるだろ。どこに連れて行かれるんだ・・・。慌てて布団をたたみ準備をする。職員が房へ迎えにきて、まだ暗い拘置所の通路を足音を立てずに静かに歩く。

領地調べ所に行った時には数人の受刑者がすでに準備を整えて、待機していた。私の他に6人いた。食パンとりんごジュースが朝食として渡された。

朝食を急いで食べた後、調べ所に並ばされて、スーツ姿の職員に告知を受けた。

「君たちはこれから島根あさひ社会復帰促進センターへ移送となる」

とここで初めて告げられた。島根か・・・遠い。。。

拘置所の入口まで護送用のバスが横付けし、腰縄と手錠をかけられて、ぞろぞろとドラクエのように連なりバスへ乗り込んだ。

東京拘置所を出て高速道路に乗り込んだので、このまま羽田空港へ行って飛行機で移送なのかなと思っていたら、羽田ではない方向へ・・・。

降り立ったのは朝の東京駅。通勤通学で沢山の人が行き交う。ぞろぞろと受刑者たちはドラクエ状態で歩く。スライムが出てきたら速攻でやられるパーティだと思う。

すれ違う人たちの視線がとても痛い。完全に晒し者。現代の市中引き摺り回しの刑。とても辛かった。

東京駅午前6時50分発、のぞみ博多行き。一切話ができない旅が始まった。どこで降りるかもわからなかった。西村京太郎もビックリのミステリーツアーだな。新横浜駅で途中乗車してきたおじさんたちが横で朝から酒盛りしだした。ビールに焼酎、崎陽軒のシュウマイ弁当。うらやましすぎた。

名古屋〜京都と車窓を見ながら、妻と子供とした旅行のことを思い出す。なんで俺はこんなことになってしまったのか・・・。本当に最低だな。家族に対しても世の中に対しても・・・。そんな思いがこみ上げた。

姫路に到着するとき姫路城が見えた。思わず、

「あ、姫路城!」と声を上げたとき、職員に睨まれた。

新幹線は広島駅に到着。ようやく降りることができた。新幹線の中では途中トイレもなし、水も飲めなかった。広島駅でまたゾロゾロとドラクエのように連なって歩く。この時はスライムくらいなら倒せる勇気はあったかもしれない。

広島駅のバスのりばには刑務所からのお迎えの護送用バスが既に到着していた。そして不幸にもそのバスの横には、修学旅行生のバスが停車していた。

頼むからバスから学生出てくるな・・・お願い。

願いは通じなかった。バスから楽しそうに修学旅行の女子高生が降りてきた。が私たちを見た瞬間、彼女たちから笑顔が消え、蔑むような目でこちらを見ながら写メを撮られた。

お迎えのバスに乗り込み約1時間ひたすら山の中を走り、ようやく島根あさひ社会復帰促進センターへ到着した。12時半くらいだった。

荷物をとりあえず置き、まずは昼食をとった。あれ、味は東京拘置所より美味しい。そう感じた。

それからここでも当然の領地調べ。そして指紋の登録をした。ここの施設では何をするにも指紋認証で本人確認をするとのこと。例えば、何かを購入するときはキオスクという端末で指紋認証して物品の購入をしたり、工場から医務室への移動の際に指紋認証で本人確認をしてドアを開けたり。なんだか凄くハイテクな刑務所だ。

しかし私は手汗がひどいせいで、指紋認証登録に時間がかかった。指紋認証は手汗かく人にはあまりいいシステムではないな。

色々と諸手続きを終わらせ、考査の訓練室へ移動となり部屋へ案内された。独居房でビジネスホテルのような感じの部屋。とても綺麗で快適だ。

しかし、拘置所とは全く勝手が違う、正直色々と戸惑った。本当にやっていけるのか不安になった。

そして、厳しい訓練の日々が始まるとは、このとき全く思っていなかった。

ここは22時消灯。時間があるから色々できるなぁと思いながら、慣れない長旅に疲れ果て、いつの間にか眠りについていた。

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