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【守破離】一見ムダに見えることまで行い、ミクロからマクロへ、マクロからミクロへ、の往還運動を繰り返す

昨日の記事

に引き続き、日経ビジネス「有訓無訓」(2010年5月24日号)より、ハンマー投げ前日本記録保持者、室伏重信さん(室伏広治さんの父)の言葉をご紹介していきます。


学生時代、大スランプに陥ったという室伏重信さんは、当時まだ目新しかった8ミリビデオで自身のフォームを撮影し、トップ選手の映像と比べていました。そのときのことを、こう語られています。


「そうか、トップ選手の足の動きはこうなっているのか」と興奮し、畳の上で練習する。そして、修正したフォームをまたビデオに撮る。そうやって、足や腕など、あらゆる部分の動きを変えていきます。

私は「回路を作る」と言っていますが、こうした各部分の新しい動きは、全体のフォームに影響します。1つの回路を変えれば、違う回路の動きが変わるわけです。だからフォーム全体をチェックし、ほかの回路も修正していく。ミクロからマクロへ、そしてミクロへ戻るーー。

マクロは物事を大局的な見地で捉え、ミクロは細かい部分を凝視して分析することです。この繰り返しが重要だと考えています。

これは、スポーツの世界だけに当てはまることではなく、すべての事を高いレベルに進化させる方法だと思います。

(中略)

この回路の修正は、微妙な体の感覚が分かっている本人しかできないのです。だから、基礎を習得した選手に、コーチがあれこれ指導してはいけないと思っています。


室伏さんが「これは、スポーツの世界だけに当てはまることではなく」とおっしゃる通り、仕事も同じでしょう。

仕事における、ある程度の方法論は、既に先人たちによってまとめられているので、その通りに従っていけば、そこそこのレベルまでは到達できます。しかし、そこからが大変。


最低限の基礎訓練を終えたら、次を目指すために、自分の能力、強み、弱み、性格や価値観に応じた微調整を加えていかなければなりません。

ところが、自分仕様にカスタマイズしようとすると、今まで均整がとれていた全体のバランスは崩れ、一旦、パフォーマンスが低下することもあるのです。


こうして調整(「回路」の修正)を加えると、それまでの力量が「10」であったとすると一瞬、「9や8」まで下がることもあるものです(ある程度まで完成された型を一度、壊す必要があるからです)。

けれども、この恐怖や不安や焦りを乗り越えなければ、成果を出すための新たな方程式を編み出し「11、12、、」といった結果を残せるようにはなりません。

高速、かつ、精度高くPDCAサイクルを回して改良した、新たなフォームがしっくりと身体に馴染んでくる頃には、また新たな方法論についての仮説を思いついているはずであり、仮説に従って再び、仕事全体に対する取り組み方を微妙にチューニングする必要も出てくることでしょう。


以上のような「回路」の修正(「ミクロからマクロへ、そしてミクロへ戻る」)を幾度も繰り返していくことが、高いレベルで進化していくためにはどうしても必要になってくるのです。

しかし室伏重信さんも言われる通り「この回路の修正は、微妙な体の感覚が分かっている本人しかできない」ので、このあたりの加減は、もはや言語化が不可能な世界。最終的には自分に最適化された方法論は当人にしか作り出すことはできません。


このことについて、東大卒プロゲーマーとして有名な「ときど」さん


(東大卒のプロ格闘ゲーマー。1985年沖縄県那覇市生まれ。麻布中学校・高等学校卒業後、1浪を経て、東京大学教養学部理科一類入学。東京大学工学部マテリアル工学科に進学、卒業。同大学院工学系研究科マテリアル工学専攻中退。2010年、日本で2人目となる格闘ゲームのプロデビュー。2017年最大の世界大会Evolution(EVO)で優勝、2018年カプコンプロツアーで年間ポイントランキング1位、EVO準優勝。さらに2019年も安定して好成績を残している)


は、

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『世界一のプロゲーマーがやっている 努力2.0』ときど著


において、


遊びは、一見ムダなようで、プレイの幅につながります。これまで「合理的じゃない」と切り捨てていた行動を見直していくと、自分がどれだけプレイの幅を狭めていたかがわかってきました。

「負けるかもしれないけど、このタイミングで新しい技を試してみよう」「ゲームに関係あるかわからないけど、筋トレをやってみよう」これまでのやり方を捨てる、そして、ゼロから「ときどらしいプレイ」に向けて努力する。そう踏ん切りがついたころから、プレイも勝率も持ち直していきました。
自分だけの答えを探し続けること、つまり努力の過程そのものが、勝ちにつながる


といった言葉を残しています。

さらに


「型にならない領域 」で勝負が決まる強い人たちは、僕が簡単に切り捨てた領域に踏み込むことで、それぞれ工夫を重ねていました 。そして、その積み重ねの差が試合内容だけでなく、勝率にも出ているのです。

トッププレイヤーの人たちが、そうやって勝つための可能性を広げているのだと気づくことが、僕の改善の第一歩でした。

格闘ゲ ームにおいて型に頼れない領域はどんどん減っています。これは人類の歴史の中で未踏の地が消えていったことと似ています。大陸が発見されて人が移り住み、開発が進んで繁栄する 。そこに留まって繁栄を享受する者と、残された未踏地に向かう者。プロゲ ーマ ーなら後者であるべきでした。

現在の格闘ゲームに残された「未踏の地」は、それほど簡単に攻略できるものではありません。たとえるなら鬱蒼としたジャングルや砂漠 、深海 、未踏峰 、南極北極です。しかし、グ ーグルマップでは行けない場所だからこそ、大きなチャンスも残されている。型に頼れない、自由でカオスな世界に飛び込む。格闘ゲ ームにはまだ、冒険の余地が残っているのです。

とも言われていますが、これはそのまま仕事の世界においても同じことが言えるのではないでしょうか。


先人を超える、圧巻のパフォーマンスを追求する者は「型を作っては壊し、を弛まず続ける」しかありません。

何かを学ぶ際に師匠・先生の存在は必須ですが、最初は先生が模倣対象ではあっても、やがて模倣できるものがなくなったとき(模倣による限界が見えたとき)、自分なりの仮説を立てて、新しい世界に踏み出し、ミクロからマクロへ、そしてミクロへ戻る、の往還運動を重ねることによって未踏の領域を目指すしかなくなります。


あるところまでは先人の教えの「守」でいけるでしょう。しかし、そこから先は確立された方法論を「破」る決意を固め、先人が考えもしなかった、それゆえ、実践もしてこなかった仮説検証を繰り返さなければ、自らの限界を打ち破ることはできません。

こうしてミクロとマクロの往還運動によってオリジナリティ(独創性)を獲得し、一人の(あるいは複数の)模倣対象としてきた師匠とは異なる世界に至り、「離」れることができたとき(そして自らが模倣される者となったとき)に初めて、先生への恩返しが果たせるのでありましょう。


先人はこのプロセスに「守・破・離」と名前を付けました。

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頂戴したサポートは新たな体験のための投資に充てさせて頂き、体験を経験化させた上で(=教訓化→言語化させた上で)、アウトプットするための費用とさせて頂きます。いつもありがとうございます。