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花咲かぬ爺さん

※主人公の残虐さを際立たせるためほんのちょびっと過激な表現を用いております。心が疲れている方は読まないでください。

俺は短気で近所でも有名なワルだ。もちろん村の連中からは忌み嫌われている。こんな性格が災いして女房もとっくの昔に家をでてしまった。小柴を拾っては街に出ていくばくかの金をもらい、小さな畑を耕し料理をこしらえ少しの酒を飲み、風呂に入って眠るだけの毎日を過ごしていた。
ある日、とんでもない馬鹿犬が俺の畑を荒らしに来やがった。冬場の作物の少ねえ時季に貴重な食いもんを荒らしやがって許さねえ。ナベに入れてくれる!そいつは隣のゆとり爺のところに逃げ込みやがった。
この、隣に住んでるゆとり老夫婦が俺は気に食わねえ。のんびり仲良く暮らしやがって。これぞ幸せな老後ってか?
「かんべんしておあげなさいよ」
こういう何でも知ってる体で上から余裕をかますところがひとしお気に食わねえ。ポチとか名付けられたそのゆとり犬は図体ばかりでかくなっていった。ある日、村の中がなにやら騒がしい。人だかりの股ぐらをくぐってその中心にたどり着くと、ゆとり爺の足元に山のような小判が溢れていた。
「ポチがここほれワンワンと吠えるので、その場所を掘り返したらこんな宝が。」
こいつは頭がおかしい。犬はわんわんとしか吠えなかろう。「ここ掘れ」などとは桃太郎相手にしか言わなかろう。俺は半信半疑でゆとり犬をこっそり連れ出すと山へ入った。はやく吠えてみろ馬鹿犬め。「いいか?ここ掘れ。だ。言ってみろ。」ゆとり犬はご機嫌でワンワン吠え立てた。ゆとり爺の言う通りならここには山のような金銀財宝だ。俺は億万長者になって、このしみったれた生活から開放される…
だが中からは蛇や愚にもつかない化け物らしきものが飛び出してきた。命からがら山を降りた俺は怒りのあまり、ゆとり犬をぶち殺してやった。
ゆとり犬の亡骸は裏山に埋められた。なぜか墓の傍らに植えた木が不気味な速さで大きくなっていく。ゆとり爺はどういう訳か木を切り倒して臼を拵えていた。なんでも木が「臼にしてくれ」と言ったらしい。こいつは頭がおかしい。だがその臼で爺が餅をつくと餅が小判に変わったというのだ。サイババでもそんな奇跡はおこせるまいに。
俺は臼をぶん取ると餅をついた。すると餅は泥や糞尿に変わり跳ねた勢いで俺の顔を真っ黒に汚しやがった。俺は怒りに任せ臼を粉々にぶっ壊して灰になるまで焼き尽くしてやった。爺は泣きながら竈の灰を集めると家に持ち帰っていった。爺はあろうことかその灰を周辺に蒔き始めた。いよいよ来たかと思ったが、何故か枯れた木々が色づき始めた。

桜が、季節外れの桜が咲いていた。

桜は殿様の目に止まり、爺は山ほどの褒美をもらっていた。俺は残りの灰をかき集め、爺と同じ様に枯れ枝めがけ灰を撒き散らした。するとそれは花を咲かせるどころか風に乗って殿様や家来の頭上にたっぷりと降り注いだ。

俺は当然のごとく捉えられ牢屋にぶち込まれてしまった。

ここで最期を迎えるのも悪くはねえのかなと、小さな明かり取りの窓からから見える遠くの、薄紅色に染まった山の頂きを眺める。

ひっそりと冷え切った虚空に、花びらがひらひらと舞い降りてくる様が見えた。
俺はただ森の花盛りを嬉しく感じた。



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