小説「海賊船の謎」

「船頭多くして船山に登る」という諺(ことわざ)がある。これは船頭を船長と訳した方が今の子供たちには分かりやすいだろう。
指図、命令する人が多すぎると統率が取れず意に反した方向に進んでしまうと言う意味である。
みんなで力を合わせれば山にでも登れるぜ!という意味では決してない。
しかしながら1隻の船だとしても偶然か奇跡か山中に現れる事があったとしたら....

『船は1隻でも船山に登る』

「おい、やめとけって。絶対怪我するって」
「そうよ、たんこぶじゃ済まないかも」
人気のない公園からなにやら大きな声を張り上げてる2人がいる。その怒声ともとれる声の向かう先は鎖に繋がれた板っキレの遊具である。もちろんこの2人は揺れるブランコにキレ散らかしてるのではない、その搭乗者にである。彼は立ち漕ぎと言われる特殊なフォームを用い凄い勢いで弧を描いている。
「大丈夫さ、自信がある!とにかく見てろって」
彼の向かう先は遊具に取り付けられている柵である。これを飛び越えることが小学生のステータスと言わんばかりにそこに構える柵は通常の公園のソレと違う。一般的な柵が取り付けられてる位置より数歩、約2メートル程離れているのだ。古すぎる公園で工事が曖昧だったのか?それとも全く違う用途なのかその柵はあまりに遠すぎる。
彼の乗っている板っキレが強く、更に強く勢いを増す。そしてタイミングを見計らい強く静かな声で
「いっせーのー、せっ!!」彼はその声と同時に宙を飛んだ。いやもしかしたらブランコに嫌がられて弾かれたのかもしれない。
制止しようとしていた2人が固唾を呑んで見守る。
彼はなんとその柵を見事に飛び越えた。勢い余って前に2回転した後彼はこう言った。
「へへーん言ったろ、出来るって」
「呆れた。翔(かける)、あなたあちこち擦りむいてるじゃない」
「着地が美しくない。これは成功とカウントしていいものなのか?」
3人がやり取りしてる。これが彼、彼女らの日常。しかし今日はもしかしたら特別な日かもしれない少なくとも膝を擦りむいた彼はそう予感していた。

あーだこーだ言っている3人の中でカノジョが話を切り出した
「あーそうだったわ、今日集まって貰ったのは他でもないわ。あの噂の話よ」

「メグ、お前はいつも噂話ばっかりであきねーな、なんか言ってやれよハカセ」
「おい、そのあだ名で呼ぶなって言ったろ翔。出来れば教授と呼んでくれって。」彼は頭髪の天然パーマへのコンプレックスからか彷彿とされる「ハカセ」のあだなを数ヶ月前から忌み嫌っている様だ。
「恵ちゃんが言ってるあの噂ってアレだろう?海賊船の話でしょ」
「そう、そうよ。この夏深夜になると漁港より数キロ離れた小さな入江から海賊船が何度も確認されたって」
メグは鼻息荒く肩を揺らしている。
「仮に海賊船だとしてその見たって人達は襲われなかったのかい?」
「もしかしたら良い海賊だったのかも」
「良い海賊って...もうそれは大掛かりなコスプレだろ」
「で、なんだい?その海賊船を見つけに行こうってのかい?僕たち子供たちの移動手段と言えば自転車。ここから数十km離れた海岸に夜中に行くのは現実的とは言えないな」
「そんなに遠くはないわ、この話には続きがあるの」
恵は手招きをして手を添えてコッソリと2人に言った。
「その海賊船、学校の裏山に出るんだって」
聞いた2人はお互いの顔を確認した後、恵に向かってこう言った
「はぁ!?」

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