大きなあき(上巻)

 「小さな秋、ちいさな秋、ちいさなあきみ~つけた♪」制服姿の彼女は口ずさんでいる。
「おいメグ、歌うのはよせ、高校生にもなって。まして街中何だぞ」そう翔が注意する彼女は素知らぬ顔をしてる。
「ハカセもなんとか言ってくれ、お前も恥ずかしいだろ?」
ゴツいメタルブルーのヘッドホンを外すと彼は「そうだな、お前があいもかわらずしている『ハカセ』呼びをやめたら手伝わなくもない」不満そうに言った。
三人は今話題の怪獣映画を観に街に繰り出していた。なんでも今日行く映画館は博士が予約してくれようだが、従来のものと比べて映像がとても鮮明でかつ何と言っても高音質でダイナミックなサウンドで評判らしい。
「上映時間まで大分あるけどどうするせっかくだし町にはないスタ場にでも寄るか?」博士が提案する。
「あー、おれはあまり気が進まないな。昔行ったことあるけど独特な空気感と言うか、オレオシャレです!みたいな人達が多くてさぁ。モチロンそういう人ばかりじゃないけど」翔はそうブツブツと文句を言っていた。
「なんだよ、これだから元シティボーイは。まぁいいよ、でもメグミが賛成なら反対はしないだろ?なぁメグミ、君も行きたいだろ?」
そう言うと二人の言葉に反応してかそうでないかわからないが、ゴキゲンに前を歩いてる恵は止まった。
「...…秋が足りない」
「ん?なんだって?」意図が汲み取れない二人は聞き返した。
「秋が足りないのよ!夏が終わったと思ったら昨日ニュースでね言ってたの。明日からもう冬の気候ですって」
 翔はイヤな予感がした。これはまた面倒に巻き込まれる、そんな経験則からくる予知はすぐ現実となる。
「大体夏や冬は期間的に長いし、春は卒業や入学、出会い別れとかでイベントとして持て囃されるのに対して秋は不遇過ぎる、秋がカワイソウ」

秋がカワイソウ』なんともパワーのあるワードだ。明日から使えそうだなぁと思って半ば感心しているとハカセが
「秋にだってイベントはあるだろ紅葉狩りとかハロウィンとか」
「じゃあその2つは二人とも今年堪能したのかしら?」そう言うと男二人は目を合わせたあと口をつぐんだ。
「でしょ?私達は圧倒的にアキニウムが足りてないの。このままではアキニウム不足で餓死してしまうわ。ということで今からえいがまでの約2時間、この街で秋を探します。題して『秋を探したら一番エラい選手権』よ!」

知らない単語と頭の悪そうな大会名に異論を唱えたがったがここまで来ると彼女は止められないことを翔は知っていたのでやめた。

まぁ適当に落葉を見つけてそのへんで時間を潰そうとも考えた、時間つぶしながらなんかあるかもしれないし..…

そう思って自分たちが歩いてる道を見回したが落葉は全くなく、青々と茂っている常緑樹が彼たちを嘲笑うかのようにそびえ立っていた。


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