小説「海賊船の謎」6

太陽の光がまばらに反射しあちらこちらの岩場を照らす。推してや返す波の音を僕ら3人を包み込んでいた。海岸沿い車2台ほど停められる窪んだ箇所に車を停めた姉は何をしているかと言うと車に軽く体重をかけケータイを確認しているようだ。
残った3人は小さな浜辺に降りて調査を始めた。
「うーん」まず最初に博士が唸っている。
「どうしたのハカセ?」恵が問い抱える
「いや、久々にここに来たけど人間の記憶って曖昧なものだね、こんなに浜辺が小さいってこともそうだけどこんなに岩礁が多くては海賊船どころかヨットくらいしか通らない」
もう『ハカセ』呼びには反応を示さないのだなと翔は横で思っていた。
「横には大きな岩肌が剥き出しなので沖の方に船があったとしても小さすぎてそれが船だとはすぐ気づかないよね?それでも見た人はハッキリと海賊船、帆船だって思うんだから」
確かにハカセの言う通りだ。こんな狭い空間に船が入れると思わないし仮に沖の方にいても全体像が見えない。見えるほど遠い距離に船があるのなら運転中の姉は気づかないだろう。そう思い、上方にいる姉に疑いの目を向けた。
「あの日は大分霧が濃かったから、こんな地形だったかな?あの向かいの方の欠けた山は覚えているから間違いないと思ったんだけど他の場所と勘違いしたのかしら?」すっとぼけた顔をして姉は答える。

「うーん、いまいち信憑性に欠けるなぁ、でも噂の入江はココで間違いなんだろ?メグ」
「場所は間違いないわ、でも他の目撃者も同じく霧が濃くてボンヤリと影しか見てないみたいね」
「霧の時に出入りするのは他の人に見られないようにする為かもね、宝を持ち帰っている時なのかもな」翔が予想する。
「どこに持ち帰るんだよ?船を隠せる場所なんてないだろ?そもそもこの入江には船なんて入れそうにない」
「満潮の時に入れるようになったり?」「あ、それはあるかも」

そんな会話をしている時黒塗りの車の後ろに一台のオートバイが止まった。バイクから降りたその男は背が高く、そのスラットした手足で精一杯ノビをしている。直後姉に気付いたようで2人は会釈している。

その青年は海岸に降りてくると
「やぁ」と気さくに挨拶した。3人はぎこちなく挨拶を返す。
「ちょっとこの辺で邪魔するけどいいかな?」
邪魔はやめてほしいと思うが彼は大きなスケッチブックを自分の大きな体の影から出した。
恵がそれを見て「お兄さん絵を描くんですか?」嬉しそうな声で尋ねる。
「そうだよ、都内で美術の大学に通っていてね、夏休み実家に帰ってきたんだけどここの風景をスケッチしているんだ。時間によって見え方が違くてココはとても面白い描きがいがあるよ。」
青年は器用に鉛筆を動かしながら言う。
「じゃあお兄さんはココで海賊船は見た?霧の日によくでるらしいんだけど?」どうやら恵は調査のことを忘れて青年に興味を示したわけではなかったようでホッとした。
「海賊船!?そんな面白いものが通るならぜひ拝みたいな。残念だけどほとんど昼間しか来ないし夜霧が出た時も1、2回来たけど見たことはないなぁ」青年は少し残念そうだ。

少し雑談を交えた後3人での会議に戻る。どうやら空間的に海賊船がここの入江に入ることは不可能であること。霧の日の夜によく目撃されること。そして霧の日だとしても必ずしも出るわけではないとのこと。3人は満足いくとまではいかないが待っている姉に悪いと思ったので調査終えて車に戻った。

翔は最後に振り返った。青年のスケッチブックには雪だるまのようなものが3つ描かれいるのを見て「一体何を書いているのだろう?」と思いその入江を後にした。


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