小説「海賊船の謎」5

後部座席に翔を乗せて黒塗りのセダンが走る。
姉の車は大学入学の時に両親に買ってもらったものであり中古車でありながらそこそこの高級車である。なんでも下見のつもりで行った時に、黒色で目立たないしこれでいいと即決したらしい。しかし女子大生らしからぬその風体に逆に人の目を集めているようだ。
「やっぱりいい車だね」
「そうね、大事に使わせてもらっている」
「姉ちゃんだけずるい、俺もなんか買ってもらおうかな」
決して本心でなく軽口のつもりで続けて言う
「優秀な姉ちゃんは愛されていて羨ましいぜ」
少し間を空けて彼女は言う

「それはあなたもよ、そうでなければ50過ぎて見知らぬ土地に家を買って引っ越そうとは思わないわよ」

その言葉を聞いて翔は激しく後悔した。 分かっていたつもりであったが両親から既に与えられているものを思い出し
「悪かったよ、そんなつもりで言ったんじゃない」
と弁明すると即座に
「わかればいい」
とお許しが出た。
その後変な沈黙が続いたが居心地が悪いわけではないのは兄弟の七不思議。
出発して10分くらいで恵の家らしき建物の前に恵とハカセらしき人と見知らぬタンクトッパーが立ちすくんでいる。
姉は路地の隅に車を寄せ車から降り
「はじめまして、天崎 朱音と申します。この度はお子様を預からせていただきます。よろしくお願いいたします」と挨拶をした。
「ガハハハハ!!!しっかりしたお姉さんじゃないか噂通りだ。これなら安心して任せられるってもんだ」そのタンクトッパーは音量調整を間違えているのか?と言う大きさで鼓膜を突き破ってくる。そこで横からハカセが耳打ちをする。
「あれ恵のお父さん、町内会の会長で工務店の社長さんらしい」
筋骨隆々のその風体にどちらかと言うと棟梁って言葉の方が似つかわしい。
「ガハハハ!!それと今晩は頼むぜ、会合に親父さんの代わり来てくれるんだろ?」
「ええ、父の代わりが務まるか分かりませんが努めさせて頂きますわ」
そういえば今日の夜の会合には姉も参加するのだった。どんなコミュニティに属しても信望を集めてしまう姉が会合でじっとしてくれていることコッソリと翔は願う。
「もう、お父さんその辺でいい?」恵が言う
「ああそうだな、それではウチの奴はお転婆ですが改めてよろしくお願いいたします」大きな体を精一杯小さくして言うタンクトッパーに「一言余計!」と蹴りを入れてそれぞれ車に乗り込む。
恵が今日は楽しみね、みたいなことを何かがいっぱい詰まったリュックを膝に乗せて言う。車のエンジンをかけ走り出すと同時に反対路地にタンクトッパーが見えた。

え!?激しく動揺し振り返ったが、恵の父はそこで手を振っている。
どうやら別人のようだ。タンクトップの色はオレンジ色で黒人男性、国籍も違うようだ。
2Pカラーか!?本気でそんなことを思っているとその黒人はこちらの方に目掛けて手を振っている。
「知り合い?」恵が言うが翔とハカセ2人とも首を横に振る。
本当にこの町は面白い。よく今までこの混沌とした状態で現存していたものだと感心していた。ただその束の間、翔は重大な問題を思い出した。


「谷仲さん家は!?」

「もうとっくに過ぎたわよ」あっけらかんと恵は答えた。

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