映画「悪は存在しない」

「悪は存在しない」Evil does not exist.

5月4日 川越スバル座にてみた。

題名からして意味深で、なんか構えてしまう。

冒頭の森の木々を見上げて進んでいくシーンが長回しで展開される。極めて印象的な音楽とともにしばらく続くので、音楽が主体の映像であることがわかる。音楽が先にあって、そのライブパフォーマンスに映像をかぶせる制作(GIFT)があって、その後に映画にもしようということになった、と後で知った。

石橋英子の音楽は、静謐で仄暗く、ただならぬ感じがする。この映画は長回しが多く、ただ薪を割るシーンなのに、研ぎ澄まされた緊張感にとらわれる。薪を割るときの所作、音、割るひとの息遣いの臨場感。思わず魅入ってしまうシーンだ。

前回の「ドライブ・マイ・カー」と同様、感情を感じられない淡々としたセリフまわし。声の起伏や大きさで感情を表出しないことで、独特の佇まいを「体験」することになる。なにかの予兆なのか、伏線なのか。さまざまな音、音楽、自然の風景(原村あたりの八ヶ岳周辺か?)、登場人物たちのセリフのひとつひとつ。共鳴しているのか、不協和音を奏でているのか、でもたしかに何かがおこる予感が高まる。

そして、予測不能なラストシーン。呆気にとられ、置いてけぼりにされたように愕然とする。

整合性や考察を拒むような、でもそれぞれのシーンの深みや潔癖性がひしひしと迫ってくる。

ようやく、題名そのものが問いを発してくる。人間の所業というもの、自然の冷徹さ、価値いうものの前提とは?、茫漠としているが厳然とした摂理のようなものはあるのか。

さまざまな印象や感情に揺さぶられる。

そしてまた見たくなる。

#悪は存在しない

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