平山さんに会いたい!

映画「Perfect Days」
(ネタバレみたいですが、まったく気にならないと思う)
平山さんは役所広司演じる主人公の名前。渋谷区の公衆トイレ(The Tokyo Toilet)の清掃員だ。彼の日常を一日一日、淡々とカメラは追っていく。映画のタイトルは、「Perfect Days」

Perfect Daysは、平山さんが移動する車の中で聞くルー・リードの曲。他にも70年代の曲がカセットテープで流れてくる。ニーナ・シモンの“FEELING GOOD”、ストーンズの“(WALKIN’ THRU THE)SLEEPY CITY ”、The animalsの“THE HOUSE OF THE RISING SUN” など。にわかにロードムービーの雰囲気になる。

平山さんの一日は、小さなアパート(スカイツリーが見える、おそらく押上)で、道路を掃除する箒の音で目覚め、布団をたたみ、歯を磨き、顔を洗い、自分の拾った草花の植木に水をやり、作業服に着替え、車に乗る前に缶コーヒーを買って車に乗り込む。そして、カセットをかけて作業場である複数のトイレの場所を巡回する。

アパートに帰ると自転車で銭湯に行き、帰りに浅草駅地下で付け出しで一杯、帰って文庫本を読み、すぐに寝入る。眠るたびに、木々の揺らぎや、万象が、ゆらゆらモノクロ映像で脳裏に浮かび上がるシーンがある。志村喬が「生きる」で見る幻影を抽象拡大したような。そういえば、休憩時間のルーティンは、オリンパスμ(フィルムカメラ)で木々を撮影すること、ほとんどノーファインダーだ。森山大道みたい。

そんな毎日をただただ繰り返す。

平山さんはほとんどしゃべらない。無口を絵に書いたような人だ。でも、万象をつねに”見ている”。何に対してもだ。仕事仲間、銭湯にくる人、トイレに迷い込んだ子ども、ホームレス... そしてときおり、木々を見上げて、穏やかな表情になる。何の差別も先入観もない、ように見える。そんな平山さんには、木々にそよぐ風のように、いろんな人が寄り付いて、木もれびを産んでいるようでもある。

こんなに淡々として、起伏の少ない展開なのに、飽きるどころか、ぐんぐん吸い寄せられる。毎日でも、いやずっと見ていたい気になる。

あらゆるシーンが、穏やかで、木もれびのように暖かく、愛おしい。大好物の俳優たちの出演もうれしい。犬山イヌコの書店員、甲本雅裕、安藤玉恵、二人の女の子(中野有紗、アオイヤマダ)も自然体でういういしい。スナックのママ役の石川さゆりが、まさか浅川マキを歌うなんて。ホームレスの田中泯は一瞬の舞踏で素敵な交歓を表現したけど、あれ以上やったら彼の映画になっちゃうところだった。なにより、三浦友和と役所広司の短いセッションは奇跡のような、儚く、美しいシーンで胸を打たれる。

Perfect Daysはルー・リードの曲だけど、題意から「日々是好日」という言葉を想起した。薄っぺらい見方かもしれないが、姪っ子と平山さんが二人で応答する、「今度は今度、今日は今日」というリフレインを聞くと、過去、現在、未来という時間の流れ、その足元をみせられたような気がした。

ほんと、平山さんをいつも見ていたい。そして、無性に会いたくなる。

そんな映画でした。

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