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【進捗報告】いつも心にサカバシラ(再校終了)

少し時間が経ってしまいましたが、11月の末日に、ようやく再校を手放しました。
11月の半ばに「だいたい済んだので、あとはサッと目を通して終わり」みたいなことを言っていたのですが、結局、初校と同様にまるまる1ヶ月、手元にありました……。

初校の時は「うわー、恥ずかしい! 目が滑る! しかしヤバいところだけでも今直さねば!」という感じでしたが、再校は「いいのか!? これでいいのか!? このあとはもう一生直せないぞ!?」という感じで、同じ行を何度も読んでいるうちにゲシュタルト崩壊が起きて、そもそも日本語としてなにが正しいのかよく分からなくなってくるという……。

以下つれづれに、初校も含めた校正時の雑感など――


まず、今回の合本版『ブラックロッド』は、
 第1部「ブラックロッド(1996)」
 第2部「ブラッドジャケット(1997)」
 第3部「ブライトライツ・ホーリーランド(2000)」(※)
(※「ブラインドフォーチュン・ビスケット」に改題します)
をまとめたものなわけですが、これらはそれぞれ執筆時期や環境が違うため、文章の書き方がそこそこちがいます。

特に第1部の文章が、今の自分から見るとめちゃめちゃダサい……のはさておき間違いが多いのと、第3部の後半が、書き急いだのか文章内容共にけっこう乱れていたのを、どうにかせねばと。
ダサいダサくないはまあ多分に好みの問題なので(その時のノリを好んでくださった人たちがメインのお客さんですし)、あんまりいじり回すべきじゃないんでしょうけど、意味が分からんのはさすがにダメだろうと。

……ということで、劇中の用語や仮名づかいの統一と共に、文章の乱れや内容の齟齬についても、適宜加筆修正しました。
ページ単位の加筆も数ヵ所ありますが、これもストーリーの流れをよくするために足したもので、基本的には「あの当時の作品を、クリアな状態で残す」という、まあ「デバッグ」とか「デジタルリマスター」みたいな意図です。

(校正の話題からは外れますが、書籍としての付加価値は、装丁や各種のオマケなどでつけていきたいと思います。ちょっとビックリするような本になる予定です)


表記揺れ関連。

全体として「文章を書き始めて数年、自分の『いつもの表記』が定まっていく時期」に書かれた数作なので、巻ごとに漢字表記や仮名づかいがちがったりします。
特に1作目は「ほとんど文章書いたことない奴が、ワープロ専用機で1行ずつ書いた」ものなので、1冊の中で表記がブレブレだったり、今では考えられないような誤字があったり。直せてよかった……。

文末の「――」とか「……」の件。
マイルールとしては、文末の「……」は文章が静かに減速して止まるイメージなので「。」をつけ、文末の「――」は加速しながら途切れるイメージなので「。」をつけない、という感じなのですが、昔の文章だとけっこう「――。」とかやってて、生理的に気持ち悪い!

「『~しだす/~し出す』問題」。
「走りだす」とか「思い出す」とかいった複合動詞。
これは仮名でも漢字でも間違いではないんでしょうが、今回は、
「動作の開始」を意味する時は「~しだす」。
「内から外への移動」を意味する時は「~し出す」。
――と、なるべく書き分けてます。
しかし、これはちょっとこだわりすぎというか、厳密にやろうとすると、
「表に『駆け出す』男を追って、自分も『駆けだし』た」
みたいなことになって、却ってブレた印象になったりも……。
今後は上記の基本ルールを念頭に置きつつ、「最終的には劇中のシーンや周辺の字面に合わせ、フィーリングで」ということにしよう……。
今回は「デビュー作をキッチリFIXする」のがコンセプトで、「この瞬間のライブ感」とか入れたくなかったんだけど、今後はノリで書いていくんだ……。
あ、「(書いて)いく/行く」問題も悩みました。今回だけな!


ルビの話。

第1部によくつけた「ルビ」、基本的に黒丸尚のサイバーパンク翻訳文体のオマージュなのですが、2部以降はそんなに熱心につけなかったというか、猥雑な「最下層市街」以外の舞台にはそぐわないので、今回、全体的なバランスを見て調整した結果、少し減ってます。

ルビを「どこにつけて、どこにつけないか」もいちいち悩んで再検討しました。基本的にはすべて、意図をもってつけて(あるいは外して)ます。

例えば「吸血鬼(ヴァンパイア)」。
第2部の辺りで「吸血鬼化」「吸血鬼禍」「吸血鬼学」「対吸血鬼戦闘」などの複合語と共に、やたらに言及されるのですが、字面として「ヴァンパイアヴァンパイアうるさい」ことになってしまうので、複合語については「ちがう単語」と解釈してつけないことにしました。付け忘れではないぞ。

例えば「呪弾」という言葉。
ブラックロッドが劇中で使う圧縮呪文には「二重カギカッコつきの漢字に英語のルビを当てる」という表記ルールがあり、『呪弾』の呪文には「ブリット」とルビを振りますが、『呪弾』(呪文)によって発射される「呪弾」(呪力の弾体)は、劇中の一般用語なのでつけない……など。ややこしいな!

また、「呪弾を圧唱」という言い回しがよく出てくるのですが(「圧唱(クライ)」は高速詠唱を意味する造語)、これは呪文の『呪弾』なのか、弾体の呪弾なのか……。
まあ「詠唱してる」から呪文のほうかな、と思いきや、別のところで「呪弾をぶちまけるように圧唱、圧唱、圧唱」みたいに言っていて、こっちは弾体のほうか……ケースバイケースだなあ……とまた悩んだり。


その他の間違い関連。

第3部冒頭のガンボーズの戦闘シーンに長いお経が出て来ます。
「理趣経」という密教のお経なのですが、
一文字、脱字がありました。
20年気づかなかった……!

第3部は群像劇的というか、3つの軸で話が行ったり来たりして、時系列がちょっとややこしいです。
今回、時間の経過を少し調整していますが、ギリギリ最後に「間違ってないかな」と紙に書いて確認したら、1日ズレてました。危なかった……。

時系列チェック


……というわけで、初校、再校共に、たいへん悩んで作業したのですが、これだけやってもおそらく見落としはあるだろうし、
「直した結果不自然に感じられるようになった」部分もあるかもしれない……。

長年の習慣として、校正作業のあとは「逆柱(さかばしら)」のことを考えるようにしています。

逆柱というのは「樹が生えていた方向と天地逆に使われた柱」で、これはよくないものとされています。吉凶の縁起の話でもありますし、本来は「根のほうが木材の密度が高く重いので、逆さに使うと不安定になる」みたいな理由があるのかもしれません。

で、日光東照宮の陽明門には、1本だけこの「逆柱」があるそうで、これは「完成から始まる崩壊」を遠ざけるための、敢えての「不完全」、つまり魔除けの意味があるのだとか。

そう、それだ。
完全すぎる作品というのはよくない。ある瞬間に「完璧」であるものは、その瞬間から時代に取り残され始める。
最初から、どこかしら間違っているもののほうが、却ってその意味を変わらずに保ち続けるのだ。

作品の中に含まれる不完全な部分、それを許容する精神、その余裕こそが、おまえを柔軟に支えてくれるはずだ。

逆柱だ……逆柱のことを考えるんだ……!
(プッチ神父風に)


(2022/12/10)


追記(2022/12/12):
描き忘れたネタ。
スレイマンのセリフ(卑語、暴言)はだいたい「表現OKですか?」という校閲さんのコメントがついてて、ちょっと面白かった。もちろんママで。


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