【有吉弘行の冠番組を語るシリーズ#6】有吉クイズ
有吉弘行の冠番組を語るシリーズの第6弾。
このシリーズでは、史上初めてNHK・民放キー局のすべてでゴールデン・プライムタイムに冠番組を持った有吉さんの偉業を祝し、各番組の見どころや有吉さんのスタンスの違いなどを個人的な視点で綴ってます。
第6弾は『有吉クイズ』
有吉クイズとは
オンエアはテレビ朝日系列で火曜20時〜。
深夜での単発放送を重ね、一部で熱狂的な支持を集めていたなかでレギュラー化し、ほどなくしてゴールデン進出を果たした。
この番組のゴールデン昇格を持って有吉さんは全曜日のゴールデン・プライムタイムに冠番組を持つという快挙を達成。
しかもNHKと民放キー局(日本テレビ、TBS、フジテレビ、テレビ朝日、テレビ東京)のすべて、つまり全局制覇だった。
この番組での有吉さんは単なるMCではない。クイズの回答者でもあり出題者だ。
厳密には有吉さんはじめ、登場するゲスト皆が出題者であり回答者となる。プライベートにまつわる密着を軸に、何かしら初めてのチャレンジに伴う過程や結果、もしくはワケありな"ワケ"を推測して答えるクイズ形式をとっている。
あくまでクイズはオマケのようなもので、有吉さんの回答なんかもはや大喜利に近い。出題者の知られざる一面や意外な挑戦を見て楽しむのが基本のスタンスである。
特に有吉さんの謎に包まれたプライベートに密着したロケは貴重で、これまでもスタジオで見守る共演者を驚かせてきた。
Oライン脱毛、ラブドール購入、ウィッグ選び、ムーンウォークやデスボイスへの挑戦。
時には漫画、
またある時にはカースタントにまでチャレンジした。
どれも有吉さんの念願が叶う方向性の企画。
それでいて本人の真剣さとは裏腹に滑稽だったり変態じみていたりと、奇妙なユーモアが生まれるのが見どころ。
スタジオにはバイきんぐ小峠、霜降り明星せいや、みちょぱなどが準レギュラー的ポジションで配置され、有吉さんの変態性にツッコミを入れてゆく。
特にせいやの貢献度は深夜時代から飛び抜けていて、細かな気付きや些細なガヤ、直接的な強いツッコミまで有吉さんの変なところや愛すべき点を見事に際立たせる。
奇怪なVTRをよそにベテランの野村アナが大真面目に進行するギャップも好き。
ゴールデン進出後は時間帯もあってか、グルメ系企画が増えた。そこに賛否両論あれど、有吉さんが直接出張る回であれば基本的にハズレはない。
代表的なのは有吉さんが珍味や美味を味わい尽くす「有吉とメシ」。
従来的な食リポは一切せず、ひたすら黙々と食べるだけ。食の量と質ともに担保しつつ、有吉さんの口から具体は語られない。テレビの常識を逸脱した異様な光景は、黙食のグルメ、黙メシなどと話題になった。
孤独のグルメですら心の声は雄弁なのに、これは本当にほぼ喋らない。
しかし、不思議と有吉さんの食べっぷりや無言の頷きを見ていると食本来の魅力が伝わる。どんな味だろうかと想像させるし、想像の余地を残す。ベラベラと既視感のあるコメントを並べられるよりよっぽど美味そうに見えるのだ。
他にも複数名が心理戦を繰り広げて絶品料理の実食を目指す企画もあるが、まだ模索中といった印象を受ける。
有吉さんのスタンスとは
他の冠番組では基本的には受けの立場を務める有吉さん。ゲストのトークやネタ、VTRを受けて内容を広げたり弄ったり独自の解釈で笑いどころを見つける。
かつて千原ジュニアは有吉さんの合気道的なスタイルを「カウンター芸の極み」と称した。他の芸人がトークのネタやエピソードを切り売りして消耗するのと違い「有吉は自分の残高を使わないでカウンターだけでやれる達人」だと。
実際、『夜会』なんかでもゲストの話を訊くのに徹している。自らエピソードトークをすることはまずない。
たまに櫻井翔くんから質問を振られて返すことはあっても、すぐに「俺の話はいいよ」と切り上げる。
それなのに『有吉クイズ』では主体的な"動"の姿を見せてくれる。とりわけゴールデン進出前は顕著だった。「他では見られない貴重な姿」なんてお決まりの煽りを使うなら、まさにそれだった。
番組の目玉であるプライベート密着ロケでは、毎回予想を超える衝撃シーンを見せつけてきた。
あれだけのテレビ露出を誇りながら自ら進んでは明かさないベールに包まれたプライベート。だからこそいっそう価値も興味も増す。
レギュラー化された初回放送では、新宿歌舞伎町のディープな繁華街の奥へと進んだ。
スタッフさんとの待ち合わせに現れた有吉さんは珍しくサングラス姿。
レイバンのサングラスで、木村拓哉からのプレゼントされたものらしい。ネタっぽくかけているのかマジなのか分からなくて笑ったが、ふつうに似合っていた。
※ちなみに有吉さんの番組をよく見ていると、木村拓哉(キムタク)のワードは意外にも頻出する。同じジムに通っていることは夜会でも語られていたが、有吉さん的にもいろんな意味でつい触れたくなるスターなのだろう。
まだゴールデン進出決定前だったので、冒頭では「夕方6時台を狙ってる」と冗談めかして語っていた。直後にはその発言を自ら闇に葬るかようにファッションヘルスの看板に目を向け「価格破壊してますね…」と物憂げに呟いていた。
令和の都心部とは思えない狭くて怪しげな雰囲気のディープな繁華街を進むと、行き着いた先は上海料理の定食屋だった。ふらっと入るには勇気のいる店構え。メニューも珍味揃い。
注文したのは、豚の脳みそとクモの素揚げ。
こうして文字にしてみても意味がわからない。
運ばれてくるなり躊躇もリアクションも一切なく大口を開けて食べ出す有吉さん。バクバクなんて表現があるが、まさにバクバク食べていた。
パネラーのみちょぱ、小峠さん、ハナコの秋山さんからは「何を見せられてるんだ」「ノールックで食うもんじゃないんですよ」と総ツッコミを入れられていた。
バキバキに見開いた眼球を動かしながら「覚醒しますね、豚の脳みそを食うと」「月に1回は食べたい」と、およそフジテレビのおさんぽ番組では見せない表情で満足そうに平らげていた。
その目は"イッていた"
あ、やっぱりやべー人だわと思った。
常識も教養もめちゃくちゃあるのは分かっているけど、本来まちがいなく変人なのである。
いまやすっかりバラエティ界の覇者的存在になり、数多の芸能人が「有吉さん有吉さん」「有吉さんに会いたかった」と口を揃えて言う。
実際当人も大人の振る舞いや柔軟な仕事をいくらでも出来る。ラジオを聴く時だけは「そうだそうだ、頭おかしかったんだこの人」と思い出せるが、たまにテレビで見るだけの人は、段々とまっとうな印象のみを持ち始めてるのではないか。
キッズやファミリーにも人気のお笑い番組をやり、NHKの知的教養バラエティもやり、美しく気品あるパートナーと結ばれ、国民的アイドルと司会もやる。紅白にも爽やかな衣装で出ちゃう。
だから忘れそうになるし、錯覚しそうにもなるけど、そもそも有吉弘行という人はイカれたところのある人間なのだ。
ちょうど先日、千鳥がこの番組のゲストでキャンプに挑戦する企画をやっていたが、そのなかで2人が交わしていた有吉さん語りが象徴する。
千鳥(特に大悟)は初めてのひとりキャンプ挑戦に手際よく対応し、火おこしから料理から見事に成立させていた。
その後、有吉さんが以前チャレンジしていたキャンプ動画を見せられた2人(有吉さんは全体的に苦戦し、丸焦げの料理を完成させていた)
そう、そもそも出は泥クサ。
猿岩石で若くしてスターになったといえばエリートだけど、その前後の歴史をふまえると苦労と修羅場を重ねた根無草。
一方でそういったキャリアがバックボーンにあるからこそ、経験値や価値観が分厚く、知見が薄っぺらくない。毛並みのいいエリートじゃないからこそ有吉さんを尊敬する芸人も多いだろう。
たけしかタモリか
有吉さんは人間性そのものに得体の知れない多面的魅力を持っている。
有吉クイズではよく散見される、"真顔で何やらそれっぽくデスマス調で喋ってる"だけでなんだか面白い。
公園の端っこのベンチでひとり弁当を食ってる姿だけで可笑しい。
ついツッコミを入れたくなるような含みを待たせた語りをする。唐突にキワどい姿も平然と晒す。
再ブレイクを果たした直後、かれこれ10年以上も前に『我々は有吉を訴える』シリーズという、有吉さんの鬼畜性を暴くロードムービーがあった。ああいったコントドキュメンタリーをやらせたらこの人のスキルはえげつない。有吉クイズではその片鱗を覗かせる。ある種のドキュメンタリー的コントをやりたいのかなとも感じる。
あのタモリさんも出はアングラで、奇抜な芸風だったことは知られる。それが気付けばお昼の顔となり、国民から広く愛される存在にまでなった。タモさんも教養と妙な親しみやすさを醸しながらどこか妖怪じみた底の見えなさを感じる。
有吉さんは時折BIG3のなかでは、その毒々しい忌憚のない物言いと兄貴肌な芸風から、ビートたけしになぞられたこともある。
けどもしかしたら案外タモリさんのほうが近しいロールモデルかもしれない。美食家で散歩好きとかも共通するし。
タモさんは圧倒的な教養と独自の視点であらゆる対象を面白がることができる。攻め受けで言うならやはり受け手。トークの守備範囲の広さは言わずもがな、知的でいて誰に対してもニュートラルなスタンスを崩さない。
タモさんがその変態性と偏屈ぶりを放出する『タモリ倶楽部』。
深夜時代の『有吉クイズ』を見ながら、これは有吉さんにとってのタモリ倶楽部になるのかもしれないと勝手に想像していた(それに関してはゴールデンになり風向きが変わったが)
最近は企画も試行錯誤して実験的に色々やっているのがヒシヒシと伝わる。『有吉とメシ』シリーズは当たりだと思うが、グルメ系以外にもヒット企画が欲しい思惑は見てとれる。
直近では、ひとりキャンプのリベンジ編は見応えがあった。有吉さんの少年のような自由な魅力が炸裂して爆笑した。久々の大当たりだった。
有吉さんにやりたいことをやらせ、奔放にやってもらいながら、スタッフさんもそれに疑義を持たず付き合う。ツッコミはスタジオに全部任せる。有吉さんの変態性や奇抜さを、これからもなるべく純度の高いまま堪能させてほしい。
有吉さんは好奇心と成長欲の塊のような人なので、彼のアンテナに掛かった時点でその人物や物事は前提として面白いのである。
常に貪欲にあらゆる知識を仕事でもプライベートでも自らの目や足で吸収し続けているためか、目のつけどころやアウトプットは意外性もあり、見る側に刺激をもたらしてくれる。
有吉さんは思考停止して生きていない。
令和のテレビを制した男のチャレンジを、成功も失敗も含めてドキュメンタリー調に見せ、どこか哀愁を感じさせるのもこの番組らしい役割な気がしてならない。
何より番組を有吉さん自身が楽しそうにやっているのが伝わってくる。
当初の深夜時代は特にそのモチベーションの高さが見て取れ、出演者と終始ご機嫌に絡んでいる姿があった。いつも以上に笑顔が多かった。
番組全体を信頼しているのも伝わり、VTRでもスタジオでもよくボケてよくツッコまれている。ツッコミを入れられるのが嬉しくて仕方ないといった様子も隠さない。
有吉さんとはテレビで長い付き合い&バラエティにおける鉄板コンビで知られる盟友・蛭子さんが認知症になって初めて出演したのは『有吉クイズ』だった。
有吉さんの本質、人間としてのおかしみ、素顔に迫ることができるバラエティは貴重だ。
奇人であるしカリスマでもあるという、奇跡のバランスの持ち主。
本人もラジオとは別に、テレビでバランスを取る場所として重宝してる環境かもしれない。
最後にあえてテンプレ表現を使う。
有吉弘行の"他では見られない姿を見ることができる"
それが有吉クイズ。
今後もますます見逃せない。
サポートが溜まったらあたらしいテレビ買います