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商人日記 2021年7~9月

経営学者ピータードラッガーの「マネジメント」を読んでいます。 分かったつもりになることなく、本質までを考え抜くようにと促されます。 それは、商人である前に人であれ。すなわち、商売とは人生そのものである。 そこにこそ、商売の要諦が潜んでいます。 実は、商人と人は分けるものではなく同じもの。 それは、商売においても、人として当然すべきことを行うだけのこと。 その当然すべきこととは何か。親子の関係、夫婦の関係に始まり、さまざまな人間関係における良きつながりを保つこと。 礼儀であり、信頼関係あるいは絆とも表現できますが、それを深めていくこと。 この時、目的と手段をよく見極めること。 商売における利益とは、目的ではなく手段であり、持続可能にする条件に過ぎない。 利益を目的にしてしまえば、瞬間的に繁栄しているように見えるだけで、長くは続いていかない。 商売および人生の目的とは何かを考え抜け。そこで、人との関係性を深めること、互いに愛せよがひとつの手がかりです。 ありし日のドラッガーの声が響きます。「顧客に寄り添い、仲間たちを生かし、社会に貢献せよ。」 2021年9月27日

東京パラリンピックが閉幕しました。 障害者を「障がい者」と表現することがありますが、ある手話通訳者の方のブログに 「たくさんの乗り越えるべき障害があるヒト」正鵠を得た表現だと思いました。 そして、人間はたくさんの障害があっても、それを乗り越える力をもっている。 今回のパラアスリートたちの活躍は、それを実証していました。 加えて、あなたもできるとエールを送ってくれていた。 人間とは、物凄く弱いところがあるものの、かたや物凄い力を発揮することもできる。 ちょうど街づくりの仲間たちと木下斉さんの著書「稼ぐまちが地方を変える」を題材に 輪読会をしていました。木下さんは「補助金は麻薬のようなもの」であり、 一度使うとやめられず廃人になりかねない。 子育ても同じで、愛情を勘違いして子供たちから自立を阻んでいないだろうか。 私の目の前に生じる問題は本来、自分の力で乗り越えることができるもの。 すると、心にある不信こそ、本当の障害だと見えて参ります。それは、周囲の愛情によって次第に溶かされていく。 自分を信じて、他者を信じて、本来の自分に近づいて参りたいです。 2021年9月9日

豊橋市では、8月22日を市民福祉の日と制定して、「自分らしく生きるとは」をお題にトークショーがありました。 アイドルグループ「仮面女子」のメンバーである猪狩ともかさんがご自身の体験を語ってくれました。 3年前に看板が強風で倒れる事故に巻き込まれて、車椅子生活となります。 それでも、アイドル活動を継続。車椅子を通じて、新しい自分の世界が広がっていきます。 ご家族をはじめ、アイドルグループの会社も全面的に支援。 また、武井壮さんとの出会いがあり、パラリンピックおよび障害者スポーツの世界が開かれます。 そんなお話を伺っていて、自分らしく生きるとは、自分の境遇を素直に受け止めて、それを生かしていくこと。 そして、そこには、他者からのサポートおよび温かな見守りがあり、他者との豊かな関係性のもとで花開く。 福祉とは、その人らしさの花を咲かせるお手伝い。 そして、そのお手伝いする人は、自分の境遇を受け止めて来た人のように感じます。 その集まりでは、福祉に関係する皆さんが集まって顕彰をされていました。 里親活動に長年取り組む家内もその一人。おめでとうございます。 2021年8月23日

東京五輪の表彰式で、君が代を背景にして、自衛隊員の敬礼のもと日の丸が掲揚されていました。 それは、勝者を讃えるためかもしれませんが、君が代の響きや日の丸は違った心持ちとなります。 ちょうど、広島の原爆の日を迎えましたが、昭和天皇の態度が思い出されます。 敵将のマッカーサー元帥と対面した時に 「私は、戦争を遂行するにあたって日本国民が政治、軍事両面で行なったすべての決定と行動に対して、 責任を負うべき唯一人の者です。あなたが代表する連合国の裁定に、私自身を委ねるためにここに来ました。」 日の丸の歴史は、栄光の歴史と言うよりも、苦しみや悲しみが伴い、血と汗、そして涙を感じます。 先の戦争では、二つの原爆、沖縄戦、全国主要都市への空襲をはじめ、我が国は焦土と化しました。 そんな重い現実と真摯に向き合ったのが昭和天皇でした。 君が代と日の丸が心に響くのは、勝者というよりも、グッドルーザーなのかもしれません。 日本の心とは、敗者の心を思いやる、仁とも思えて参ります。昭和天皇のお名前は裕仁。 終戦記念日を前にして、コロナ禍の重い現実に向き合って参りたいです。 2021年8月12日

地元の中学生たちに自分の仕事を語り、参加した生徒からの感想を記したものが届きました。 「自分の中にまた新しい考えをつけることができました。 自分なりの考え方で、これからも悩んで悩んで、自分なりの答えを見つけ出します。」 あの時の質問の一つで「年収はいくらですか?」 それは「社長になろう!」というタイトルからすると一番気になる質問であったと思います。 ただ、この時代も年収という金額の多寡だけで価値判断してはなりません。 家業を継承する自営業とは、お金ではかえられない価値もあるのだと思います。 そのあたりをつかんでくれた手応えを感じました。 改めて、パナソニック創業者・松下幸之助さんの言葉を思い出しました。 「お金というものは面白いものだと思います。 たとえ同じ金額のお金でも、それをどう自分が手に入れたかによって、 使い方が大きく変わり、したがってそのお金が発揮する値打ちが違ってくるからです。」 社長とは、そんな金銭観をもち、労働の汗に敬意をもつ人とも言えそうです。 あるいは、お金よりも尊いものがあることを背中で語る人なのでしょう。 2021年7月22日

イノチオホールディングスの石黒功社長から、会社の創業者の歩みをまとめた「石黒利平先生」を頂きました。 利平さんは、郷土田原藩の藩士であった渡辺崋山から学んでいましたが 「なすある者は、必ずなさざるあり」これが崋山精神の神髄であり石黒精神であると。 崋山絶筆の書「餓死るとも二君に仕ふべからず」を同列に置いて 「なさざる」それは「やらない」という強い意思すなわち自制心を分かりやすく解説されていました。 自制心のあるところ、そこにこそ本当の自由があります。 この時代も、自由を履き違えて、動物的本能や感覚に溺れてしまうものが溢れています。 先生という存在は、ご自身も弱さを身にまといながらも「それは違うぞ!」と叱咤してくれます。 コロナ禍の中でタガが外れてしまった、いつしか軟(やわ)になっている時代が必要としているものです。 そこで、時来たりと石黒さんが実行委員長に立たれて、 崋山の市民劇「海風(かいふう)に吹かれて」が年末公演されることとなりました。 アフターコロナは「なすある者は、必ずなさざるあり」天の声として、身を引き締めて参りたいです。 2021年7月17日

長野県飯田市に家内とふたり銀婚旅行に出掛けました。 駅前にあった老舗の定食屋を訪れました。 ご家族で経営されているご様子で、力士の写真が掲示されていました。 白髪の店主らしき人に「お若い時の写真ですか。」すると「息子です。」 タブレットを持ってきて、息子さんのその日の取り組みを見せてくれました。 「楽しみがあってよいですね。」「いや、ケガをしないか心配ですよ。」 高卒で8年経過と苦闘ぶりが伝わって来ましたが「いつでも帰る家があるから。」 帰ってくることを待ちわびている様子でもありました。 今回は、飯田市出身の畏友のお母さんを訪ねる旅でもありました。 その友人は、知的な障害をもっていて、4年前に若くして亡くなります。 そのお父さんは、私の結婚前に亡くなりますが、お見舞いに伺った時に「息子をよろしく」と目を輝かせていました。 九十を越えたお母さんの悲しみは今日も癒えず「息子は可哀そうだった・・・」 親の愛情を受けたからこそ、人は尊い存在だとも思えて参ります。 我が家の子供たちも心配は尽きませんが、私たちの愛情を引き出してくれているのでしょう。 2021年7月12日

二刀流のベーブ・ルースがヤンキースタジアムで先発マウンドに立ってから88年。 誰も同じことができませんでしたが、それを大谷翔平選手が実現しました。 ところが、初回を投げ切れずに降板。大量7点を失ってしまい、その試合は決まったかと思われました。 大谷選手は降板後、打席には立たず、ベンチからの声援。 すると、土壇場の9回に味方が7点を取り返して、試合をひっくり返しました。 チームは勝ち、大谷選手に負けはつきません。 いつもは、大谷選手に助けられていたチームですが、この試合では大谷選手を助けていた。 野球とは個人競技ではなく、あくまでチームの競技だと分かります。 試合後のインタビューでは、すでに大谷選手は気持ちを切り替えている印象で、次を見据えていました。 曇天を振り払い、カラリと晴れた気構えが特質なのかもしれません。 会社も同じで、個人プレーではなく、チームで戦っています。 そこがよく理解できていると、気持ちを切り替えやすく、大きく構えることができる。 二刀流で成果を出せるのも、チームあってのこと。 そのことを大谷選手はよく理解していると思いました。 2021年7月3日